小さな、未来の魔法使い
「実体化できる時間はそう長くはない。だが、君達が伝えたいことをすべて私達に話してごらん。きっと気が晴れる」
とハシュオン。
「……お茶、飲めるのかしら?」
ライニィは姉弟に問いかけて、水筒に入っていたわずかばかりの香茶を彼らに差し出した。姉弟は礼を言い、さっそく茶飲みを手に取った。
[嬉しい! ありがとうございます。このお茶飲みたかったんです。――いい香り。おいしい……]
それからリージはかつての自分たちのことについて話し始めた。両親のこと、村人達のこと、ラサク村のことについて。
ライニィはいったん席を外したが、新しい茶と共に部屋に帰ってきた。姉弟にも茶が配られる。姉弟はまた喜び、ライニィに礼を言った。
しかし楽しかった時間もわずか。姉弟の身体は実体を失いつつあった。
[話を聞いてくれてありがとうございました。たぶんこれであたし達も、ようやく村のみんなのところに行けると思います]
まもなく実体が消えることを悟ったリージは、それでも幸せ一杯の表情を満面に浮かべ、ほほえんだ。
[エリス。あなたを慰霊碑のところで見かけて、追ってきたの。あたし達を感じ取ってくれたはじめての人だったから、嬉しくて……]
「さっきはごめんなさい。わたし、あなた達を怖がっていたわ」
エリスメアは頭を下げた。
[仕方ないわよ。あたしだって幽霊と聞けば怖がるに違いないもの]
リージはころころと笑った。
[……こんなこと言うのも変だけれど……エリス、友達になってくれない?]
「もちろんよ! わたしはあなた達のこと忘れない。だからあなた達もわたしを見守っていて?」
あふれ出ようとする感情をぐっとこらえ、エリスメアと姉弟は固く握手を交わした。そうしてすうっと、姉弟の姿はエリスメアにも見えなくなった。一筋の涙がエリスメアの目からこぼれ落ちた。
「あの子達は世界の果ての山々を越えて月に行き、そして?幽想の界《サダノス》?にたどり着くだろう。……お前はあの子達を救ったんだよ」
父は彼女の柔らかい金髪を撫でた。涙をためたエリスメアは父に向き直ると、小さな身体を父の胴に埋めて、しばらくの間泣きじゃくるのだった。
作品名:小さな、未来の魔法使い 作家名:大気杜弥