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小さな、未来の魔法使い

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六.


 屋根の上から見えるのは満天の星空と月。
 この夜、ハシュオンはメイゼル一家と同じ宿で泊まることにした。ハシュオンは天上高く見える月を見上げると親友に言うのだった。
「今日はここに来て本当によかった。この数十年間で、最も意義のある日だったのかもしれない」
 エリスメアの父はうなずいた。
「娘のことですか」
「そうだ。大陸の魔法書ももちろん貴重な本だが、それ以上にエリスには驚かされた。彼女は本当の魔法使いだ」
 言って、ハシュオンは月から目をはずし、親友を見た。
「エリスメアを、私の弟子にしたい」
 親友の一言に、ほう、とエリスメアの父は驚きの声を漏らした。
「私も年老いた。今日会った姉弟と同じ場所に赴くのもそう遠いことではないだろう。私の人生は波瀾万丈、色々なことがあったが、今では幸せな人生だったと思っている」
 父親は黙ってハシュオンの言葉を聞いている。
「……今まで私は、魔法学の後継者を見いだすことができなかった。魔法の頂点たる“魔導”こそ七百余年昔に封印されたが、魔法はまだ細々と世界に残っている。だが魔法の意味や世界に及ぼす影響までをも考えられる本当の魔法使いは、今では僅かばかりとなってしまった。また彼らを後継者に迎え入れるには彼ら自身年を取りすぎている」
「エリスは適切ですよ。魔力を帯びた“色”も見え、手に取るように扱える。足りないのは実践と知識です」
 父は笑って、娘の資質に太鼓判を押した。
「……明日、エリスメアに訊いてみよう」
「あの子はびっくりするでしょうね。ライニィも。でもアリューザ・ガルドには、あの子の力が必要になるでしょう」
 二人は再び天上を見上げた。

 今宵の月は真円を象って、白銀の光を地上に放っていた。




       【了】