小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

小さな、未来の魔法使い

INDEX|5ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

三.



 エリスメアは夢を見ていた。それは突拍子もなく不思議ものでも、荒唐無稽で痛快なものでもなかった。これは悪夢。かつてこの地で起こった戦争の惨劇を、彼女は夢に見ていた。その悲劇が本に書いてあったものなのか、それとも誰かから教わったものなのかは定かではない。しかしエリスメアが見ている夢は、あたかも彼女自身が今体験しているかのように鮮明なものだ。彼女は俯瞰《ふかん》的に、真下の草原の有様を見ていた。ただ見ていることしかできなかった。

 早朝。戦士団の一大隊は目指す戦地に向かうべく宿営地から離れ、殺気をはらませて一斉に決起した。だが彼らが消し損ねたほんのかすかな残り火が、不運にも近接していた森と村を地獄に陥れるのだった。
 その日は未明から大風が吹き荒れており、森の木々はみなびゅうびゅうと音を立てて揺れていた。煙を立ててくすぶっていた薪が赤く燃えはじめるのに、そう時間はかからなかった。風にあおられた火の粉が次々と近くの木の幹に当たる。幹は幾度か火に耐えしのいだが、やがてたまらず煙をくすぶらすようになった。そして発火。その野火は風を受けて他の木々へと燃え広がってゆく。

 小さな村は、四方をこの森に囲まれていた。日々穏やかな暮らしが続いていたこの村だが、さすがに戦士達が近くで野営しているとなると神経をとがらせ、大人達が数人、交代制で夜間の見張りについていた。大風を受けた木々がうなる音のせいで、火が燃える音は不運にも彼らの耳には届かなかった。
 空が薄明るくなってきた頃、ようやく一人が森の異常に気付いた。村の鐘がやかましく鳴り響く。それを聞いた村の大人達は見張りからの報告を聞き、火を消し止めるためにあわてて動き始めた。だが時すでに遅し。滑車の付いた大きな水槽を転がし、木を切り倒す斧を持って森の中に向かった大人達だが、事態はもはや取り返しのつかないことになっているのを知った。
 村を守ろう! そう叫び、大人達は村へと引き返した。が、火の手はすでに村に襲いかかっていたのだ。野火は前からだけでなく、横からも木々を燃やしていたのだ。こうなってはなすすべはない。絶望に陥った村人達は嘆き叫びながら、後方の林からかろうじて逃げのびていくのだった。
 林から脱したその後、村人達は二人の子供だけがいないことにはたと気付いた。何人かの大人達が水を頭からかぶり、決死の覚悟で村に戻るために林へと姿を消していった。

 彼女の視点は一転、とある家の中へと移った。明かりの灯っていないその部屋は薄暗いうえ視界一面煙っている。火の手がこの家にまで襲いかかってきたのだろう。こんな煙に巻かれたらたちまち昏倒してしまう。だが夢の中のエリスメアにはそれらの感覚が伝わってこない。
 夢の視点が床に切り替わる。そこにはエリスメアと同い年くらいの女の子と、彼女よりやや小柄な男の子がうつぶせになって倒れていた。姉弟なのだろう。眠りから覚め、突然の火事に驚いた哀れな彼らは、逃げようとして思わずこの部屋を包んでいる煙を吸い込み、毒気にあてられて倒れたのだ。残念ながら二人とも息を引き取っていた。
 やがて真っ赤な火が天井から見え隠れするようになってきた。この家も長くは保たない。夢の中のエリスメアは悲しみに包まれながらも、ただ見つめるほか無かった。
 天井から大きな梁が焼け落ちてくるまさにその時、彼女は目覚めた。