小さな、未来の魔法使い
『エリスのことが気がかりだ』と言おうとした父親の言葉を遮って、エリスメアが手を挙げた。
「エリス。食事時にはしたないぞ」
咀嚼《そしゃく》したまま口をはさんだ娘に対し、父が言う。
「ごめんなさい父さま。でもわたし、先生のところに行ってみたいの」
「……だってさ、どうしようか?」
父はライニィに回答を求めた。『僕は構わないよ』と言いたげに。
「エリス、そんなに行きたいの?」
と母。
「ええ。だって先生にお会いしたいし、魔法についてお訊きしたいことだってあるのよ。……それに、わたしの夏休みにちょうど父さまが帰ってきてるのだもの。家族旅行っていうのもいいじゃない? 学校でも、両親と一緒にどこかに出かけるっていう友達も多いの。知ってる? カメルって子なんて、大陸の都ディナールでこの夏中ゆっくり過ごすって言うのよ。お願い母さま。去年の夏は見送りになったんだから、今年こそ旅行に行きたいの!」
エリスメアは瞳を輝かせて母親に懇願した。
「はあ、まいったわね。言ったら聞かない子だもの」
エリスメアはうんうんと強くうなずいた。
「母さま、宿題はちゃんとやるから、わたしも連れてってください!」
そう言ってぺこりと頭を下げる。
エリスメアが魔法に夢中になる原因は、四年前のハシュオンとの出会いにあった。当時この街を訪れたハシュオンはメイゼル家にしばし滞在した。ふとした魔法を彼が用いたのを見たことがきっかけで、以来エリスメアは不思議きわまりない魔法に夢中なのだ。学校でも?魔導の時代?の頃の歴史学をよく学び、魔法関連の本を読むために図書室に入り浸ることもしばしばある。娘の熱心なさまを見知った母は、エリスメアを自分の跡取りにすることを半ば諦めているほどだ。
父は母に、目で会話した。そして切り出す。
「……それじゃあ家族旅行といこうじゃないか。めったにできないことだしね。行き帰りの護衛は僕がやるよ。……昔はよく剣を取ったものだ。その腕は今もなまっちゃいないからね。それと、エリスは母さんの言うことをちゃんと聞くんだよ?」
「はい、わかりました。大好きよ父さま!」
面と向かってきっぱりと言われた父は、照れ笑いをして頬を緩ませるのだった。
作品名:小さな、未来の魔法使い 作家名:大気杜弥