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赤のミスティンキル

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 エリスメアに魔法の素質があると見抜いたのは、父レオズスだった。レオズスはエリスメアの家族と相談した後に友人のハシュオン卿に掛け合い、娘が学校を卒業した後には魔法を教えてやって欲しいと頼んだのだ。
 ハシュオン卿はバイラル族ではなく、森の民エシアルル族である。彼はすでに千年以上の長きに渡り生きてきたのだが、ついに老いの時期を迎え、近年では自らの後継者が欲しい、とレオズスにこぼしたこともあった。単なる一介の魔法使いではなく、魔導師としての知識を習得した人間にこそ自らのすべを継承させ、後世に魔導学を遺して欲しいというのが、アリューザ・ガルドに現存する唯一の魔導師ハシュオン卿の切なる願いだったのだ。
 それゆえにエリスメアの才能が魔法に突出していたという事は、ハシュオン卿にとっても大いなる朗報だった。彼はエリスメアを弟子とし、それから六年間かけて自らの手元で魔法について教えたのだった。彼が弟子に教え説いたのは魔法や魔導についての知識や発動法のみならず、魔法が世界においてどのような役割を果たすべきか、ひいては世界と魔法との力の相関関係をも含んだ非常に高度な内容であった。若い弟子は、時折師匠に反発しながらも、賢明に教えを吸収していき、十六歳になる頃には当代一の魔法使いとなっていたのだった。

 彼女はその後、師の元を離れて西方大陸《エヴェルク》へと渡り、魔法使いとして生計を立てて実社会に身を置きながら、魔法の修行に励む道を選んだ。フィレイク王国王都ファウベル・ノーエに二年間滞在した後、さらに海を渡り東方大陸《ユードフェンリル》のアルトツァーン王国王都ガレン・デュイルで生活をしていた。

 そろそろ師匠の元に戻り再び魔法についてさらに教えを請おう。彼女がそう思い始めた矢先のことだった。父レオズスから魔法を使った伝言が彼女の元に届いたのは。

◆◆◆◆

 〜 エリスメア、元気かい? なかなか会える機会が無くて申し訳なく思ってる。
 さて、いきなり唐突なお願いとなってしまい申し訳ないのだが、父と一緒に旅に出てはくれないだろうか? 向かう先はユードフェンリルの南部、ドゥローム達が住むデュンサアルという場所だ。
 今回の件については、君の師であるハシュオン殿からも許しを頂いているし、何よりエリスにとってもいい修行の機会になる、と思う。
 この手紙が届いてからきっかり五日後の昼に、エリスの元に行くつもりだ。詳細はその時に話したいと思う。

 天土すべての聖霊たちが、君に祝福をもたらすことを願って。
 愛する娘エリスメアへ 父レオズス、またの名をタール弾きのティアー・ハーンより〜

◆◆◆◆

 図書館の扉の前に立ったエリスメアは、高鳴る鼓動を少しでも抑えようとするかのように、これから待ち受ける旅への決意のほどを新たにするかのように、大きく息を吸い込み、そしてはき出した。
 そうして堅牢な扉をぎいっと開け、外へと一歩踏み出す。
 薄暗がりの図書館から一転して、外の景色は明澄で、目に映る全ての事物が日の光を反射しているかのようだ。一瞬エリスメアは眩惑されたが、すぐに目が慣れた。埃くさい図書館の匂いとは違い、外の空気は実にすがすがしい。
 真正面に目を向けると、そこには噴水がある。そして、久しく会ってなかった父の姿があった。思うより早く、エリスメアは彼の元へと駆けだしていった。
「父さま!」
 その声に父レオズスは振り返り、駆けてくる娘に笑顔で手を振って応えた。

 こうして、彼ら父娘の旅は始まったのだった。






作品名:赤のミスティンキル 作家名:大気杜弥