赤のミスティンキル
「いえ、むしろ帰路の方が安心できます。彼らと一緒に龍がついていますからね。龍の翼だったらここまで辿り着くのにそう時間はかからないはず、です。……というより問題はやっぱり往路ですねぇ。僕ひとりで行ってもいいんだけれども……あなたの言うとおりだ。魔導を持つ者に対してどう対処すればいいのか、正直分かりません。……エリスは今どこに?」
「エリスメアはアルトツァーンの王都、ガレン・デュイルにいる。あの娘を連れて行くのか?」
「はい。あなたと“彼ら”以外に魔導を知る者といえば、あの子しかいないでしょう。まだ腕の方は確かではないかもしれないけれども、僕にとって大きな支えになることは間違いない。出来ればエリスと合流した後にデュンサアルへ向かいたいのですが、よろしいですか?」
「それは私の決めることではないだろう。エリスメアは君の娘だ」
「そしてあなたの弟子でもある」
「……それはそうだが……。私が行かないとなると、彼女が君と共に行動するのがもっとも望ましいだろう。それに、彼女自身の魔法修行になるのは間違いないから……分かったよ。我が弟子を付き添わせるとしよう。よろしく頼む」
「分かりました。……しかし僕らの運命っていうやつも、やっぱり数奇なものなんですねぇ。魔導と切っても切れない関係にある、とはね。……もう少しのんびりとさせてくれても良さそうなものを……このぶんじゃあ、万が一、冥王が復活したときにも、真っ先にかり出されそうだな、僕は」
青年は苦笑して答えた。
こうして、いにしえより魔導と深い繋がりのある者達も、また動き出した。
魔導の復活。それはアリューザ・ガルドの諸国家や一般人にとっては何ら興味を引く事項ではないだろう。
だが、魔法使いにとっては違う。魔導封印後も、一部の魔法はこれまで細々と受け継がれていた。威力の弱いそれらは“まじない”とか“術“などと呼称されていた。そこに突如、魔導の継承者が現れたのだ。その者は魔導を行使するに相応しい魔力と、手段を持っている。しかし、自然界の摂理や魔導の発動原理の知識となると全く無知だ。
復活した魔導は――そしてミスティンキルは、アリューザ・ガルドにおいて、この後どのような物語を紡いでいくことになるのだろうか?
それを知る者は誰一人としていない。
もし予言に精通した魔導師が現世におり、このあとの筋道を語ったとしても、いざその局面に実際に立ったとき、予言がすべて現実のものになるかどうかは定かではないのだ。
人間達の行動いかんによって、未来とはどのようにも変化していくなのものだから。
◆◆◆◆
……。
ソシテ……。
ヨウヤク“私”ハ目覚メタ……。
ソウ。
……望ンデイタ時ガ、遂ニ来タノダ……!
〈第一部・了〉