落ちてきた将軍
美穂は、殆ど目を閉じ、座り込んでいる。その小さな背中を包み込むようにして、紀子が覆い被さっていた。
鋼を思わせる髭がのたうち、川の中に飛び込んだ。川底を叩いたのだろう、鞭のような髭が水面から飛び出ると一緒に、人の頭程の石が跳ね上がり、バラバラと降ってきた。
「危ない!」
誰が発したのか判らないが、その声に皆が反応した。降ってきた石は楠木の枝を折り、祠を砕いた。
「きゃーーーっ!」
紀子が叫んだ。
あたふたと、逃げ惑うヤクザ達。パンッ、パンッという、銃声がした。誰が発砲したのか分からないが、それは何の意味も成さなかった。銃声よりも降ってくる巨石の方が遥かに恐ろしい。
騒然とした中で、家慶だけは悠然としていた。祠から布に包まれた瑞剣を持ち出すと、その紐を解いた。蘭の側に走り寄り、瑞剣を構えると、目を閉じ呪文を唱える蘭に向かって叫んだ。
「蘭よ・・・・来るぞ・・・覚悟は良いか!」
蘭は、その問いかけにも答えず、呪文を唱え続けた。龍の動きが一瞬止まった。
瞬間。龍は蘭を目がけて襲った。巨大な口が更に開き、蘭を喰らおうとした時、蘭は、カッと目を見開いて叫んだ。
「今!」
家慶は一瞬、腰を屈めると、全身をバネにして剣を突き上げた。
「やった!・・・逆鱗(げきりん)を突いたぞ!」