落ちてきた将軍
「綾乃殿・・・世話になった。達者で暮らすのだぞ」
「・・・はい!・・・お殿様」
「うむ・・・それからな・・・」
「はい・・・何か?」
「うむ・・・一月程して、その祠の裏を探すが良い」
「祠・・・?ですか?」
「そうじゃ・・・あの祠の裏じゃ・・・一月の後だぞ」
「・・・はい・・・畏まりました・・・でも、何が?」
「ハハハ・・・世話になった礼じゃ・・・綾乃殿も早く身を隠すが良い。さもないと、龍に食われてしまうぞ」
「はい・・・お殿様・・・お達者で」
「心配は要らぬ」
「あっ!」
「どうした?」
「剣が・・・・剣がいるのではないのですか?」
「既に用意しておる」
「・・・しているって・・・何処にも・・・」
「祠じゃ・・・あの祠の中に隠して置いた」
「いつの間に・・・用意のよろしいことで」
「では、さらばじゃ。早くお子を生みなされよ」
「余計なお世話でごじゃります」
「ハハハ・・・別れるのはちと淋しいが・・・楽しかったぞ・・・どうした?綾乃殿・・・泣いておるのか?」
「だって・・・淋しくなりますで・・・ごじゃります・・・」
「ほれ・・・涙を拭いて」
わっと、綾乃が家慶の胸に飛び込んだ。家慶は、綾乃の肩を優しく抱きしめると、蘭に無言で合図を送った。
「やれ!」というのであろう。蘭はゆっくり頷くと祠の前に立ち印を結んだ。呪文を唱え、精神を統一していく。
「綾乃殿・・・蘭が召喚の術に入ったぞ・・・早く、身を隠しなさい」
「うっ・・・うっ・・・お殿様」
「綾乃殿・・・」