落ちてきた将軍
綾乃は、ひしっと蘭に抱きついた。小さな背中を抱きしめながら、優しく撫で、涙ながらに蘭の名前を口にした。
「蘭ちゃん・・・あなたの事は忘れない・・・ずっと・・・ずっと家族よ・・・私の妹よ・・・蘭・・蘭・・・」
「姉上・・・私も・・・この世に生を受け、初めて愛を感じる事ができました・・・姉上の愛が・・・今の私の力でございます。私も、死ぬまで・・・姉上を忘れません。姉上・・・お元気でいて下さい」
蘭は綾乃の耳元に口を寄せ、何やら呟いた。蚊の鳴く様な小さな声が、綾乃の吐息と共に耳の中に飛び込んできた。
「えっ!?・・・蘭ちゃん・・・ホント?」
「姉上・・お静かに・・・私、嘘は申しません・・・ですから、それまで・・・」
「蘭・・・・もう一度抱きしめさせて」
「私も抱きしめとうございます・・・姉上・・・」
二人のヤクザは少し離れた所で佇んでいる。一人がスーツの胸ポケットから携帯電話を取り出すと、何やら話しはじめた。
「蘭よ・・・邪魔が入らぬうちに頼む」
「はい・・・では、姉上・・・そして、紀子様、美穂様・・・その楠の木の陰にお隠れ下さい。龍に見られぬようお願いします」
「何だか・・・凄くドキドキしてきたわ・・・本当に龍を呼ぶのね・・・こんなの信じられないよ・・・」
「私・・・怖いです・・・紀子先輩・・手を・・・手を繋いでいて下さい」
「うん・・・私もさすがに怖くなってきた・・・早く、楠木の影に隠れましょう。ほら・・・美穂ちゃん、手を貸して」
「はい!・・・先輩!」
家慶は綾乃の肩に手を掛けると、その手に力を込めた。