落ちてきた将軍
「もう、良いだろう・・・銀二。お前の適う相手では無いようだ。いや、あの小娘は只者じゃねぇ・・・それに、このサムライも・・・おサムライさん。ちょいと、訳を聞かせてもらえないかね」
「お前らには関係の無いことだ」
「まぁ、そう言わずにさ・・・この竹内、あんたらに興味が湧いちまってなぁ・・・信じられないが、おサムライさんが、徳川家慶という事なら、時代を超えて・・・なんだ、タイムスリップしてやってきたって事じゃねぇか・・・何なら、力を貸しても良いんだがな」
「博徒の力など当てにはせぬ」
「そうかい・・・じゃあ、約束だ・・・先に参拝しな」
「うむ。皆、参るぞ」
家慶達が参拝すると、その後ろで控えるように、竹内親分一同が並んだ。経緯を知らないものが見れば、博神会がお供をしていると思われるような光景だったろう。
参拝を終えた家慶達は参道から外れ、長い石段を降りていく。その後姿を、竹内はじっと見つめ、手下に指示を出した。
「猪俣!・・・川原!・・・後をつけろ・・・気づかれるなよ。」
竹内は、どうしても、不思議な連中が気になるらしい。半信半疑ながら、ひょっとしたら・・・本当に江戸から徳川家慶がタイムスリップしてきたのかもしれないと思った。だとすれば、自分自身の腑に収まる。そのあたり、竹内は柔軟な頭の持ち主だった。