落ちてきた将軍
西の空に黒い煙が上がっている。最初は火事かとも思ったが、そうではないようだ。雲・・・黒い雲が、異常な早さでモクモクと発達し、四方へと広がっている。綾乃は、かつて、このような雲の広がりを見た事が無かった。
「いやだ・・・何だか薄気味悪い・・・帰ろう・・・。」
そう独り言を言って、立ち上がったときだった。凄まじい音の落雷が立て続けに起きた。
「きゃーーーっ!」
綾乃は、耳を劈くばかりの轟音に身を竦めた。風が起こり、雨粒が綾乃の頬を打つ。綾乃は更に小さく身を屈めた。
「こ・・・怖い!・・・助けて!」
楠の大木が枝を揺らし、ザザッ・・・ザザザッ・・・と、ざわめく。
ごうっ・・・という風切り音がした瞬間、腕ほどもある楠の枝が鈍い音を立てながら折れて、綾乃の側にドサッと落ちた。落ちた弾みで飛び散った楠の葉が、綾乃の頬を掠めた。
「きゃっ!・・・何?・・・一体何なの?」
綾乃は、恐るおそる、空を見上げた。
いつの間にか黒い雲は、手の届きそうな程に、低く垂れている。その奥で、怪しくも眩いばかりの光が明滅するのが見えた。ドロドロと鈍い音を轟かせていた。