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つゆかわはじめ
つゆかわはじめ
novelistID. 29805
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落ちてきた将軍

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 小さく折られた千円札は、またしても賽銭箱の角に当たって床に落ちた。

「うそぅ!・・・信じられない・・・もう・・・いいっ!」

 綾乃は、その事に腹を立てると、踵を返した。

「もうっ・・・どこまで、私を馬鹿にしたら気が済むのよ!神頼みなんて、する方が可笑しいわっ」


 福岡の愛宕神社は、その名の通りに愛宕山という小高い丘に建立されている。綾乃は来た時とは違う、裏手の、急な階段を下りていった。
 綾乃は不機嫌である。折角、気持ちを新たにしようと思い、疲れた体に鞭打って初詣に来たと言うのに、賽銭箱からも嫌われてしまったのだから、無理も無い。
 綾乃は、小さな溜息を何度もつきながら、急な石段を下りていった。下りきった所にコンビニがある。綾乃はそこで缶コーヒーを買った。
 そこから少しだけ歩くと川筋に出る。福岡では大きな河川、室見川である。綾乃は、川沿いを北へ向かって歩いた。
 人通りの無い、室見川沿いの奥まった所に小さな祠があり、巨大な楠木がある。
 ご神木なのだろう。祀られていた。綾乃は、その楠木の下に腰を下ろすと、缶コーヒーのプルトップを引いた。
 正月だと言うのに然程寒くも無く、初春のような青空が広がっている。綾乃は缶コーヒーを飲みながら、巨大な楠木の枝葉の隙間から、澄み切った青空を見上げた。何も心に響いて来ない。昔だったら・・・数年前だったら・・・こんな青空を見たら、美しいと思ったはずなのに・・・。綾乃はそんな事をぼんやりと思いながら、西の方に目を向けた。
作品名:落ちてきた将軍 作家名:つゆかわはじめ