落ちてきた将軍
ヤクザの集団の中でも年長の男が、家慶と向かい合うようにして顎を上げている。その両脇を屈強そうな男達が固めていた。ヤクザ達は、家慶を只の変わり者と見たのだろう。どの顔も、嘲笑に満ちていた。
「あ〜あんなにお殿様の事を笑っちゃって・・・知らないから・・・蘭ちゃん・・・どうしようか・・・ここで見とく?」
「そうですね・・・私達が行けば、油に火を注ぐようなものかもしれません・・・暫く、様子を見ましょう」
「そうね・・・まさか、こんなところでドンパチは無いでしょう・・」
「ドンパチって?」
「あ・・・銃のこと・・・鉄砲」
「持っているんですか?あの、無宿人」
「どうかしら・・・きっと、お殿様と話しているのが組長か何かよ・・・その取り巻きは持っているかもね・・・」
「そうですか・・・飛び道具・・・ふむ」
蘭は首を少し傾けて思案すると、綾乃が静止するのも気づかない風で、真っ直ぐに、集団に近づいていった。最初に美穂が気づいた。
「あっ!・・・蘭さん!」
「えっ!・・・あ・・・綾乃さんも」
ヤクザ達はその声に反応した。
「おっ・・・なかなかの美人じゃねぇか・・・お知り合いかい?」
「うむ・・・身内と言っておこう」
「向こうで立ち竦んでいるのも身内だな・・・若くはねぇがベッピンじゃねぇか・・・お侍さんよ・・・あんた何者だい?只のイカれたオヤジじゃなさそうだな」
「言っても信じないであろう。博徒などの頭じゃ理解できまい」
「博徒!?・・・・ハッハッハッ・・・気の利いた事言うじゃネェか・・・面白い男だぜ」
蘭は集団の中に、つつっ・・・と割り込んだ。二十歳そこそこにしか見えない蘭が警戒の的になる事は無く、誰も止めようとはしない。当然だろう。