落ちてきた将軍
「嬉しいです・・」
「えっ?ヤクザが嬉しいの?」
「いえ・・・ちゃんって・・・妹になったみたいです」
「うん・・・ちゃんって、呼ばせて・・・妹にしてあげる」
「ホントですか?・・・ほんとに姉上になっていただけるのですか?」
「綾乃に二言は無い」
「姉上・・・嬉しくて、血が滾りそうです。急ぎましょう!・・・手を貸して、姉上!」
綾乃は蘭が差し出した手を握り締めた。温かい。心臓が破裂しそうなほど、心拍数が上がった。足元が覚束ない雪の山道を登っているからだけではない。恋焦がれた異性に愛を告白したのとは違った歓喜が、込み上げてきた。握り締めた掌から、互いの感情が迸っているかのようだった。二言は無い。この時、綾乃は蘭を家族にしようと硬く誓った。
こういう場合、冷静な作者は、その無茶を馬鹿げていると制するだろう。
だが、綾乃はこうと決めたら抑制が効かない性格だと言う事も、重々承知だ。折角の夢見心地に水を差すなと叱られるので、放っておく。
二人は、手を取り合って参道まで辿りついた。鳥居が見える。その先、拝殿の前に、黒のスーツで身を固めた集団が屯していた。
「あれよ・・・あれがヤクザ。博徒の成れの果て」
「身奇麗にしていますね」
「さ・・・蘭ちゃん・・・覚悟して・・・行くわよ」
「はい!・・・姉上!」
蘭は、祭りの夜店にでも飛び込むかのようにはしゃいだ。
「あ・・・やっぱり居たわ・・・」
拝殿前に屯するブラックスーツの群れに隠れるようにして、三人がいた。
もめている風でもない。
「嫌だ・・・お殿様ったら、ヤクザなんかと何を話しているのかしら・・」