落ちてきた将軍
蘭は、綾乃の背中を追った。
二人は家を飛び出した。車が無くなっていた。チェーンを装着して出かけたようだ。
綾乃の衣服で身を包んだ蘭を、誰が過去から来た忍者などと思うだろう。だが、家慶は違う。武士のシンボルであるちょん髷は、どこへ行っても目立ち過ぎる。
「もう・・・一体何処へ行ったのかしら・・・」
「綾乃様・・・こちらです」
「えっ!?・・・分かるの?」
「はい・・・轍を追います」
「追いますって・・・・」
「綾乃様・・・私は・・」
「そう・・・一流の忍者だったわ・・・追って」
「はい!」
蘭は、積もった雪の上に残るタイヤの跡を追った。その背中を綾乃が追う。再び空を、雪雲が覆い始めていた。
綾乃は、欄の後を追いながら、携帯電話を取り出し、紀子に電話した。出ない。呼び出し音の後、留守番電話に切り替わった。
「美穂ちゃんは出るでしょう・・・・」
結果は同じだった。留守番電話に切り替わった。
「もう・・・いったい、あの人たちときたら・・・」
蘭は、轍を追っている。まるで、野生のハンターのようだ。先程、マグカップを抱きながら微笑んだ・・・ダウンジャケットを着せたら、似合いますかと可憐な笑顔を見せた・・・あの、蘭ではない。
綾乃は、携帯電話をポケットに仕舞うと、目の前を走る蘭の小さな背中を追い続けた。
蘭は、愛宕山に向かっている。綾乃が初詣に出向いた、愛宕神社がある小山である。愛宕山へ登る坂道は、さすがに轍が走っていない。手前の駐車場に出た。あった。赤いステーションワゴン。綾乃の車だ。