落ちてきた将軍
それより・・・もうだいじょうぶ?・・・と言いながら、毛布を蘭の肩に、優しくかけた。未だ濡れている髪にそっと手櫛を入れると、蘭は綾乃を見上げて微笑んだ。桜の蕾が、ぽっと音を立てて弾けたように、可憐な笑顔だった。
気持ちが通じたのかもしれない。この時、綾乃は真剣に、蘭を家族に欲しいと思った。
馬鹿げていると言えば、それまでかもしれない。だが、ぽっかりと空いていた心の隙間に、いつの間にか、蘭が大きく入り込んでいた。
それは、男を愛するのとは違っている。綾乃は、蘭の魅力に吸い込まれるように、幸せにしてやりたい!と、心の中で叫んだのは事実だった。
「そういえば・・・みんな何処へ行ったのかしら・・・」
「先程、お出かけになりました」
「出かけたって・・・どこ?」
「行き先はお聞きしておりません・・・家慶様と三人でお出かけになりました・・・綾乃様もご存知かと・・・」
「うそ・・・お殿様も一緒なの?」
「はい・・・・」
「やだ・・・何だか嫌な予感がするわ・・・・ちょっと、捜してくる」
「あ、私も!」
「駄目よ・・・蘭さんは、ここにいて」
「大丈夫です。もう、すっかり元気になりました。お供します」
「そう?・・・」
じゃあ、これを着なさい・・・そう言って、蘭にダウンベストを着せた。蘭は嬉しそうに袖を通すと、似合いますか・・・と微笑んだ。
「ぴったりね。行くわよ」
「はい!」