落ちてきた将軍
その時、蘭は、自分が裸にされていることに気がついたらしく、頬を赤く染めた。頬が染まったのは、何時間も、雪の中にいたせいなのかもしれない。蘭は、言葉を発する事無く、横を向いて瞼を閉じた。家慶は、毛布で包んだ蘭を抱え上げると、風呂場へ向かった。
「綾乃殿・・・準備はできておるか?」
「はい。お湯はタップリと・・・・」
綾乃の心中は、穏やかでない。先程までは、蘭の命がどうなるか、そればかり考えていた。だから、嫉妬心にも蓋を閉じることが出来た。だが、命の無事を確認した今、再び、風呂場で蘭の裸を家慶が見る事は、何だか許せない気がしたのだ。
そんな複雑な気持に翻弄されながら、家慶の背中を追っていく。更に、その後ろからは、眉を吊り上げた二人が、目配せしながらついていった。狭い家だ。ものの数秒で風呂場に着いた。
「蘭・・・ゆっくり、浸かるが良い」
「家慶様・・・・」
「骨の髄まで凍っているであろう・・・今は忍術の事は忘れろ・・・良いな」
蘭は小さく頷くと、一筋の涙を零した。忍者として、己の未熟を恥じたのか・・・身分を越えて、命を守ってくれた事への歓喜なのか・・・涙の意味が何なのか、綾乃達には解らない。ただ、綾乃達の心の温度は悪戯に急上昇し、言葉ともつかない、喘ぎ声にも似た声を発した。
「あっ・・・あの・・・あ・・・あ」
家慶は、ゆっくりと腰を落とすと、蘭を床に下ろした。
そして、毛布に手をかけた。
「ああっ・・あの・・・あの・・・」