落ちてきた将軍
「・・・す・・凄い・・凄すぎるわ・・・蘭さんに勝てるものは居るの?」
「もちろん居ます」
「やはり・・・忍者?」
「いえ・・・己の心です」
「心に迷いが生まれた時・・・私は、只の女でしかありません」
「それだけ、精神を酷使すると言う事なのですね」
それまで、子供のように、瞳を爛々と輝かせ、じっとしていた美穂が口を開いた。
「美穂様・・・その通りです。肉体的な修行は、精神を鍛える為のものです。その精神が弱ければ・・・肉体も弱ります」
「龍を呼ぶ、召喚の術って・・・きっと凄いのでしょうね?」
「今までで、使った事は、二度しかありません。一度は、伊賀谷で。・・・そして、忠邦様の寂林庵で・・・この度・・・三度目ができるかどうか・・・」
「その時は、此処で暮らせば?」
「もう・・・紀ちゃんったら・・・そんな簡単なお話じゃないでしょう?
家慶様がいるのよ・・・次期将軍様が・・・お江戸に戻さなきゃ」
「だから、家慶様だけ戻して、蘭さんは残ったらいいんじゃないですか?」
「ま・・・それも・・・・」
「あっ!・・・先輩・・・何か企んでますね」
「あら・・・どうして?」
「だって、小鼻がヒクヒクしてるもの・・・先輩が何か企んでいる時の癖だもの」
「クスッ・・・紀子様・・・・それも忍者の技の一つですよ。相手の癖を読んで、心を見抜く・・・・紀子様も、くノ一です。」