落ちてきた将軍
「綾乃様たちのように、美しく着飾り・・・恋もしてみたい・・・」
「してみる?」
「えっ?」
「化粧(けわい)・・・してみない?」
「化粧・・・・・」
「してあげるわよ・・・どう?」
「良いのですか?」
「お部屋に・・・行きましょう」
「しかし・・・家慶様のお側を離れるわけには・・・」
「ソファで鼾を掻いているわ・・・家慶様も、言っていたでしょう?ここには、ネズミ一匹も、敵は居ないって・・・ほら・・・いこ」
「はい」
綾乃は、蘭の手を引いていった。家慶の鼾が止まった。家慶は、静かに瞼を開けると、首を転がし、窓の外に目を向けた。音も無く舞い落ちる雪は、その密度を上げ、衰える気配が無い。
「不憫じゃな・・・・・」
家慶は、そう独り言を言うと、再び鼾を掻きだした。
女三人寄れば・・・何かとかしましい。四人寄ればどうなるのか・・・・・。
まるで、修学旅行の、夜の一室を覗くようである。薄化粧を施した蘭の姿を前にして、かしましい三人が、小さな溜息を何度もついている。