落ちてきた将軍
「この分だと、明日は真っ白ね。蘭さん・・・すこしは落ち着いたかしら?」
「あ、これは・・・綾乃様」
「少し・・・いいかしら?」
「一向に構いませぬ・・・お二方は何処へ?」
「お風呂に入っているわ」
「先程は・・・ありがとうございました。お陰で、この私の汚れた体も、綾乃様と同じ匂いがします」
「クスッ・・・芳しい・・・ね。シャンプーっていうの。その後につけたのがコンディショナー・・・・それより、忍者って・・・凄く勇気があるのね・・・あんな恐ろしい龍と戦うなんて」
「私は戦うために生まれ・・・そして、育てられたのです。定めです。恐怖心はありません」
「お江戸に、恋人はいないの?」
「こいびと?」
「そう・・・好きな人の事」
「忍者には無用です」
「そう・・・」
「綾乃様は?」
「私?」
「はい・・・その、こいびと・・・とやらは?」
「いたけど・・・死んじゃったの」
「人が生まれるのも・・・そして死ぬのも天命でしょう。悲しむ事はありません」
「クールなのね」
「くーる?」
「あ・・・どういえば良いのかしら・・・冷静・・・」
「冷たい・・・冷酷・・・ではありませぬか?」
「・・・・そこまでは・・・」
「私は幼い頃、父(とと)様と母(かか)様を殺されました。それ以来、私は怒りのみを頼りに、荒業の苦行に耐えてまいりました。人を好きになるという事は、修行の邪魔でしかありません。私も綾乃様のように、この世で生まれていれば・・・」
「生まれていれば?」