落ちてきた将軍
第9章 女ごころ
夜は、大雪になった。まるで、天から、白いレースのカーテンが下りてきたように、降りしきる。蘭は、背もたれの無い椅子に腰を下ろし、窓越しに、ぼんやりと外の世界を眺めていた。
温かい・・・とにかく・・・温かい。
蘭は、部屋が暖かいというだけで、世界の違いを感じていた。外の冷たい世界とはまるで別世界である。春を感じさせる程の温かさに、体が蕩けそうだった。それにもまして、綾乃、紀子、美穂、三人の甲斐甲斐しさと優しさに触れ、かつて味わったことの無い至福感を感じていた。野生の獣のように生きてきた蘭にとって、椿の蜜のように甘い世界があった。
風呂場では、綾乃から、強引に体を洗われた。後ろで束ねていた長い髪も、同様だ。絶世の美女忍者とはいえ、雪の中で龍と戦ったのだ。装束は汚れ、薄汚れた野良犬同様だった
風呂から上がった蘭は、綾乃達から、無理やり、服を着せられた。蘭は肌着を嫌がったが、綾乃達がそれを許さなかった。ピンクの肌着を着けられ、そして、グレーのスゥエットを着せられた。
忍者はどんな状況下でも順応できるように精神構造ができている。蘭が嫌がったのは、ピンクの肌着を着ける事ではなく、その事で、心の中に女が現れる事に躊躇したからだった。
冬の間、拳を握り締めるように閉じていた桜の蕾が膨らみ出すように、蘭の心の中で、何かが育っていた。人が恋しい。
蘭は、忍者としての資質が剥がれ落ちていくのを感じていた。雪の中に忠邦の顔が浮かんだ。
〜〜〜「この仕事を最後に、忍者を辞めてはどうじゃ」〜〜〜
蘭は、激しく首を横に振った。それは、出来ない。忍者として生まれたからには、忍者として死ぬ。それが掟。
召喚の術を使うには、究極の精神統一が必要だ。その為には、雑念を払拭し、体力、気力を充実させなければならない。蘭は小さく息を吐くと、印を結び、雑念を胸の奥深くに閉じ込めようとした。が・・・声を掛けられた。