落ちてきた将軍
蘭は、小さく頷くと、将軍家斉から特命を受け、水野忠邦の許、二の丸へ忍び込み刀箪笥から二本の剣を盗み出し、召喚の術で龍を呼び出して戦った事をつぶさに話した。
例によって、紀子は身を乗り出すようにして耳を傾け、頬を染めていった。美穂は、その小さな胸を抱くようにして、可憐な瞳を輝かせている。蘭の話は、まるで、おとぎ話を聞いているようだった。
綾乃は、静かに語る蘭の姿に、凛とした清々しさを感じた。そして、時々香る、瑞々しい女としての魅力。今の時代に生きていれば、たちまちスターになりそうなオーラを放っている。江戸時代と言う、封鎖的な時代で、しかも将軍直属の忍者。綾乃は何が幸せで、何がそうでないのか分からなくなった。
「うむ・・・そういう事であったか・・・やはり、あの龍が、時空の門番をしているようじゃな」
「そうかと思われます」
「しかし・・・何故であろうな・・・何故、この家慶と蘭をこの時代に吐き出したのであろうな・・・」
「それは、私にも分かりませんが、あの龍はこの時代の門番かと思われます。」
「・・・と申すと、龍はもっといるというのか?」
「はい・・・時空を彷徨っている時に、他の龍と何度もすれ違いました。時空の中には多くの龍が棲みついているようです」
「そうか・・・・ところで・・・蘭も見たか?」
「・・・と申されますと」
「我が日の本の未来じゃ・・・」
「それは・・・私の口からは・・・」
「そうか・・・見たのだな・・・我が徳川家も、そう長くは無い」
「お察し申し上げます」
「だが、歴史の中の一人として、天命を全うする勤めがある。江戸へ・・・戻るぞ」