落ちてきた将軍
三人は、絡み合うようにしながら、バタバタと家の中に走りこんでいった。
「家慶様!・・・家慶様っ!」
「何じゃ、騒がしいぞ・・・如何した。」
部屋の中に飛び込んで、三人は唖然とした。驚くのも無理は無い。いつの間に、しかも何処から入り込んだのか・・・蘭は、家慶を前にして、膝を正して座っていたのだ。膝の前には、鏡のように光る刀が、抜き身のまま置かれていた。
「うそっ!・・・一体、何処から入ったの?」
「ハハハ・・・この者は、父上・・・家斉様、直属の「くノ一」じゃ。家に忍び込むなど、容易い事だよ」
「忍者の習性と言うもの・・・あなた方を信じなかった訳ではありません。お許しください」
「入り口は、玄関しかないはずよ。他は、全部鍵が掛けてあるわ・・・一体、どうやって?」
「変鼠の術でございます?」
「へんそ?」
「はい、ネズミに化け、隙間から・・・」
「うそ、うそ!・・・そんな、おとぎ話じゃあるまいし・・・忍者みたい」
「その、忍者でございます」
「何だか、頭がクラクラしてきたわ」
「脅かして申し訳ございません・・・それに、先ほどは、そちらの姫君には大変ご無礼を・・・お許し下さい」
「姫君って・・・私のこと?・・・姫君・・・先輩・・・私、姫君」
「はい、はい。・・・美穂ちゃんは、お姫様みたいに可愛いからね・・・」
「ところで、江戸から、どうやって来たの?それが知りたい!」
「うむ・・・蘭よ、話せ」