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つゆかわはじめ
つゆかわはじめ
novelistID. 29805
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落ちてきた将軍

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 雪の塊が、どかっと降ってきた。龍が竹林に頭を押し入れてきたのだ。
 天を突く一対の角は、金を塗した様に煌いている。寂林庵など一呑みできそうな、大きく裂けた口。そして、鞭のように撓る黒い髭が、竹の枝葉を、尽く千切り飛ばしている。鱗が、漆を塗ったかのように、ぬらぬらと鈍く光っていた。赤みがかった金色の目が、蘭を見据えた。
 忠邦は、足が竦んだ。そして、どうすべきか、己の心に聞いた。
 刹那、忠邦は黒鞘に入った瑞剣をむんずと掴むと、裸足のまま庭に飛び降り、走りだした。向かう先は、龍の頭。忠邦は、足の裏で雪を掴みながら、真っ直ぐに突進した。鞘を抜き、瑞剣を掲げる。
 雪下の竹を踏んだ。足の裏が裂け、痛みが走ったが、忠邦は、臆する事なく足を前へ出した。赤い足跡を残していく。龍が、頭を後ろに引いた。

「蘭を、喰らう気かっ!」

 蘭は、振り向くと、ザクザクと雪を掴んで走り寄る忠邦に向かって・・・微笑んだ。

「蘭!・・・死ぬ気か!?命と引き換えの必殺かっ!」

 忠邦は、咄嗟に、手に持った瑞剣を、振り向いた蘭に目がけ、槍の様に投げた。すると、投げられたその刀身から、錆が・・・雪に洗われ、剥がれ落ちていった。そして、終には・・・蒼い光を放ち出す。その剣、正しく瑞剣。
 蘭は、かっと目を見開き、飛んできた瑞剣を空で掴むと、龍の下に飛び込んだ。そして、柄頭に片手を添えると・・・渾身の力で、龍の喉もとに向けて突き上げた。
 小さな光の玉が飛んだ。 そして、瑞剣が、龍の喉許に突き刺さった・・・かのように思えた
・・・が、しかし、その切っ先は、龍の黒光りする鱗を一枚剥ぎ落としただけだった。
作品名:落ちてきた将軍 作家名:つゆかわはじめ