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つゆかわはじめ
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novelistID. 29805
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落ちてきた将軍

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 綾乃の仕事は、年末で殺人的に忙しい。それもあって、クリスマスイブだから行かないで・・・とは言えなかった。言わなかった事を、今でも悔いている。
 純一は雪山に一人で入り、そして戻っては来なかった。二日後に捜索隊が出され、純一は、谷底で冷たくなって発見された。
 雪で足場がおぼつかなかったのだろう・・・無残なまでに潰れたピックアップ。転落の時に飛ばされたオフロードのオートバイ。純一は、運転席で胸を押し潰されて死んでいた。

 葬儀の後、純一の両親から、これはあなたへ渡すべきものだからと、小さな包みを渡された。綾乃がその包みを開けると、アクアブルーの小さな化粧箱があり、その中にはダイヤの指輪が入っていた。綾乃は、純一が、山から戻ったら話があると言っていたのを思い出し、死ぬほど泣いた。息が出来ない程に泣いた。綾乃は、その時の悲しみを表現する言葉を知らない。

 悲しみの沼から引き上げてくれたのが佐々木司郎だった。会社の上司で、優しくて誠実な男だと思っていた。
 純一の一周忌を終えた後に、司郎からプロポーズされ、綾乃はそれを受けた。今となれば、愛してはいなかったのに・・・と後悔もするが、離婚の最大の原因は女だった。
 一見、温和で優しい司郎に、女の存在が在る事を知ったからだった。綾乃は司郎を問い詰めた。司郎は土下座をして詫びた。以前から付き合いのある女で、結婚してからも時々、会っていると白状した。

「何で、彼女がいるのに私と結婚したの?」
「君を放っておけなかった・・・息をするのも辛そうだったから・・・」
「同情?」
「それは・・・違うよ・・・愛しているんだ」
「その人にも同じ事を言っているんでしょう?同情半分でプロポーズしたのね」
「違うよ・・・でも、君だって・・・」
作品名:落ちてきた将軍 作家名:つゆかわはじめ