落ちてきた将軍
綾乃の一目ぼれだった。元来、何事にも積極果敢な性格の綾乃は、先手に出た。自分から誘ったのである。純一を食事に誘い、回数を重ね、そして、体を捧げた。
綾乃は、仕事と恋愛に全力投球してきた。最初は、遊ばれてもいいとさえ思った。それ程に綾乃にとって、純一は高嶺の花。
しかし、意外にも純一は、生真面目で真っ直ぐな、浮ついたところの無い、綾乃にとって至上の男だった。
綾乃は、幸せを掴んだと確信した。純一の為なら、命すら差し出すだろうと己の愛を確信した。そんな幸せの絶頂に・・・純一が死んだ。
綾乃は神を呪った。悲しみと憤りで、噛み締める唇から血を流した。綾乃は生きる気力さえ無くし、何度も、自ら命を絶とうと思った程だった。
純一はアウトドアを趣味としていた。特に冬の山に雪が積もると、自分を見つめ直すのだと言い、一人で出かけていた。
綾乃は何度か、自分も連れて行って欲しいと頼んだことがあったが、危険だからと綾乃の願いは叶えられたことが無い。
付き合いだして二年がたった時・・・今でも忘れない・・・いや忘れることが出来ないクリスマスイブ。純一は、クリスマスには戻るから、イブは山に行かせてくれと一人でピックアップにバイクを積み、薄っすらと雪化粧をした背振山へ向かった。