落ちてきた将軍
蘭は、数ある太刀の中から二本を選び、背中に挿した。そして、再び、ひたひたと走り外へ出た。崩れ落ちた二人の門番が、鼾を掻いて眠っている。扉に鍵を掛けると、音も無く、二の丸から消え去った。
暫くして、見回りの与力が、倒れている門番に気づき、血相を変えて走り寄った。与力は倒れている門番の頬を、ヒタヒタと叩き、揺り起こした。二人の門番は、大欠伸をしながら、与力を呆然と見上げた。
「何をしておる・・・眠っておる場合では無いぞ・・・果たして、門が破られたか!?」
与力は慌てて、鍵を確かめた。しかし、鍵は、掛かっている。与力は、大きく安堵の溜息をつくと、門番に替わるよう告げて、その場を立ち去った。
忠邦は縁側に立ち、ネズミが消え去った竹林を眺めていた。すると、その竹林の奥深く、赤い炎が燃え上がった。忠邦は身を乗り出して、その赤い炎に気を取られた。背中で、声がした。
「忠邦様・・・行って参りました。」
忠邦は、背中に悪寒を感じて振り返った。そこには、白装束の蘭が、二本の太刀を前に置き、静かに座っていた。
「一体・・・何と言う技だ。」
「然程の術ではござりませぬ・・・それより、二の丸より二振りの太刀を持って参りました」
「おお・・・良くぞ、あの厳重な警備を破ったものじゃ」
「お言葉ながら・・・あれは、警備と呼ぶには恥ずかしい限りでございます」
「殺めたのか」
「殺める程もありませんでした。少しばかり眠ってもらったまで・・・」
「何とも・・・蘭の手に掛かれば、どのような兵でも赤子のようなもののようじゃな・・・どれ、見せよ」