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つゆかわはじめ
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落ちてきた将軍

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第6章 くノ一・蘭

 忠邦は、駕籠を用意させると、庵へと向かった。物々しい護衛は、あえて付けなかった。提灯を持った中間二人が、駕籠の前後を守り、小走りでついていく。
 江戸城を出て北に向かうと、伝通院というお寺がある。今で言えば、文京区になる。後楽園までは、歩いて行ける距離である。徳川家康の菩提寺として有名であり、当時は、幕府の絶大な庇護を受けていた。
 その伝通院の裏手。竹林の中に、寂林庵はあった。庵と言っても、茶室があるだけの小さなものではない。周囲を竹林に囲まれ、人目から避けて建てられてはいるが、瀟洒な佇まいで、立派なお屋敷である。

 寂林庵の一室。茶室を模して造られたその部屋には、囲炉裏が切ってあり、炭が焚かれていた。忠邦は、茶釜から立ちのぼる湯気をじっと見ていた。腕を組み、思案げである。
 龍に浚われた家慶を探し出し、連れ戻す。将軍、家斉の上意である。命に代えても、やり遂げなくてはならない。さもなくば・・・切腹。いや、切腹だけでは済まない。お家断絶、取り潰しとなる。そうなれば、唐津藩を捨て、浜松藩に転封を願い出、老中という大職を射止めた意味が無くなる。
 忠邦は、心中穏やかでは無かった。まるで、竹取物語ではないか・・・。無理難題である。
 今、家慶が何処にいるのか・・・いや、生きているのか、それすら分からないのだ。しかも、龍をどうやって、この現の世界に呼び出せば良いのか、皆目、見当もつかない。忠邦は、火箸で、真っ赤になった炭を転がしながら、日中起きた事を振り返っていた。
 しかし、いくら思い起こしても、雷に打たれ、堀に飛ばされた所までしか記憶に無い。
 堀から這い出した時には、既に家慶の姿は無く、松の根元に、家慶の愛刀、国光が横たわっていただけだ。
 忠邦は思い立ったように、愛刀・宗政を掴むと、はたと立ちあがり、縁側の障子をあけた。いつの間に降り出したのだろう。竹の枝葉の間をすり抜けた白いボタン雪が、ゆっくりと落ちていた。吐き出した息が、白い霧となって消えていく。
作品名:落ちてきた将軍 作家名:つゆかわはじめ