落ちてきた将軍
蘭の、稀に見る美貌は、人間に対しては強力な武器になる場合もあるが、相手が龍となれば如何だろうか。
「蘭よ」
「はい、何でございましょう?」
「何が得意じゃ」
「必殺・・・でございます」
「武器は何が得意じゃ?」
「何でも使います。飛び道具はもとより、時には・・・かんざし・・・そして、この指先、この体の全てを使い、必ず敵を殺します」
「なるほど・・・お前の体そのものが必殺の武器と言う事じゃな」
「はい・・・最後は、この蘭の命が武器でございます」
「見事な心構えじゃ・・・しかし、相手は龍であるぞ」
「心得ております」
「蘭・・・早速、一仕事、頼めるか」
「何なりと」
「二の丸に、刀箪笥がある。その中には徳川家に代々伝わる名刀が眠っておる。その中から二振りを選び出し、今宵五ツ(午後8時)に、我が寂林庵まで来い」
「公方様の刀を盗めと・・・」
「いかにも・・・警戒は厳重じゃ。おりしも、この騒ぎじゃ、いつにも増して与力衆が登城しておる・・・やれるか?」
「容易い御用でございます・・・しかし、刀の目利きを、この私に?」
「刀には詳しいか?」
「一向に・・・・しかし、選べと申されれば、この蘭の心眼にてお見立ていたします」
「うむ・・・必殺の刀を見つけて参れ。銘には拘るな。お前が必殺の武器として使うならば、どれを使うか・・・それで良い」
「畏まりました・・・今宵、五ツ(午後八時)・・・刀を二振り・・・お持ちいたします。」
「見つかれば、蜂の巣だぞ」
「この蘭・・・目的の為には手段は選びません・・・よろしいでしょうか?」
「二の丸番を殺めると言う事か?」
「邪魔者は消します。」
「致し方あるまい・・・。」
「では・・・今宵、五ツ」
「うむ・・・・消えよ」