落ちてきた将軍
綾乃はバッグの中から、小さな封筒を差し出した。
「あっ!・・・お守りだ!・・・何処の?」
「えっ?あっ?違う・・・こっち、こっち・・・はい、お年玉」
「わ〜!凄い〜!今年は、新年からラッキーだわ!ねぇ、美穂ちゃん」
「はい・・・嬉しいです・・・でも、綾乃さん、さっきのは、何処のお守りなんですか?」
「あ・・・あれ?・・・いいの、いいの・・・さ、行きましょう!」
綾乃達が、店の鍵を閉めようとした時・・・事件が起きた。
正月には決まって、其処彼処で暴走族が気を吐いている。その騒音は迷惑な話なのだが、関わりさえもたなければ、眉をひそめるだけで済む。
綾乃達が店を出ようとした時、車とオートバイ、合わせて20台程の大集団が、店の前の駐車場に集結し、綾乃のステーションワゴンを取り囲むように停まりだした。車は、奇妙な旋律のクラクションを鳴らし、バイクは無意味にエンジンを空吹かししている。
「嫌だ・・・あれじゃ、車が出せないじゃない・・・」
「・・・ったく、もう!文句を言ってやるわ」
そう気を吐いたのは、紀子だった。
「あっ!・・・紀ちゃん止めなさい!関わっちゃ駄目よ!」
綾乃の注意も耳に入らないのか、ジーパンに革ジャンを羽織った紀子は、ブーツの踵をカツカツと鳴らしながら、暴走族に近づいて行った。
「不味い・・・警察を呼びましょう・・・携帯、携帯・・・あれ・・・携帯がないよ・・・嫌だ・・・家に忘れてきちゃった・・・美穂ちゃん、悪いけど、携帯を貸してくれない?」
「すみません・・・私も家に忘れてきちゃって・・・ごめんなさい」
「じゃあ、お店から電話しましょう」