落ちてきた将軍
「徳川初代、家康様が祀られておる。」
「それくらい、この綾乃も知っております」
「ほほぅ、そうか・・・嬉しいぞ。ささ、日の本一に運気のこもった札じゃ。これを、懐に入れておくが良い。ワシに代わって綾乃殿を守ってくれるであろう」
「お殿様・・・・」
「癪は治まったようじゃな・・・行ってまいれ」
「・・・はい!・・・では、できるだけ早く・・」
「早く戻って参れ・・・綾乃殿がいないと、余は不安で適わぬ」
「・・・・・・」
「どうした・・・早く行くが良い。ほれ・・・早く行って・・・早く戻って参れ」
綾乃は、家慶から腰を押されるようにして家を出た。
車中、綾乃は気が気で仕様がない。現に、ハンドルを持つ手が怪しいし、信号も見ていない風だった。
一度、大橋の店まで行く。三〇分程だろう。そこで、紀子と美穂を拾い、福岡花市場まで行く段取りになっていた。
綾乃は、家慶の事を二人に話すかどうかで迷っていた。信頼できる二人だが、自分の話をまともに聞いてくれるか不安だった。
一度は話そうと心に決めた。しかし、ものの五分もしないうちに、いや、まてよ・・・と考えが変わる。きっと、夢でも見ているんだと思われてしまいそうだ。もし、自分だったらと考えれば・・・絶対に信じないし、はなから笑い飛ばすに違いないからだ。
しかも、紀子に至っては、あの男勝りの性質だ。家慶を怪しい者として、追い出しに掛かるかもしれない。そうなれば、ややこしい事になってしまう。
ああ、どうしよう・・・そう考えているうちに、綾乃の運転するステーションワゴンは、フラワーショップ・綾に着いた。
車から降り、店の鍵を開けていると、背中から声をかけられた。
「綾乃さん!あけまして、おめでとうございます!」
「あ、うん・・・二人とも、おめでとう・・・あ、これ・・・いきなりでゴメン。お店からお年玉」