落ちてきた将軍
「顔を・・・顔を良く見せてくれ」
えっ?・・・と言う間も無く、家慶は綾乃の細い腕を引くと、胸元に引き寄せた。
「あっ!・・・お殿様・・・いけませぬ・・・。」
「たわけ!・・・顔を見るだけじゃ」
「ふんっ・・・はい、どうぞ」
「良い顔じゃ・・・好ましい・・・美しい顔立ちじゃ・・・。」
「そんな・・・ジロジロ見られたら恥ずかしいです」
「いやいや・・・良く見せてくれ・・・ううむ・・・綺麗な目じゃ・・・偽りの無い瞳をしておる」
「もう・・・いいでしょう?恥ずかしいよ」
「今宵は・・・」
「えっ・・・・?」
「伽をせい」
「とぎ?」
「うむ・・・この家慶、龍と戦い、流石に疲れた・・・体は疲れたが興奮が未だ醒めやらぬ。綾乃殿・・・夜伽をせい。」
「伽って・・・あの・・・あれの事?」
「そうじゃ・・・あれじゃ」
「ばっ・・・ばっ・・・この・・・バカ殿っ!」
綾乃の平手打ちが、ぶぅんと唸りを上げて、家慶の、左の頬を目がけて飛んだ。
「パシッ!」
綾乃の小さな掌は、咄嗟に差し出した家慶の手の平を叩いた。叩いたまま、家慶の大きな掌で、くるりと包まれた。