小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
つゆかわはじめ
つゆかわはじめ
novelistID. 29805
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

落ちてきた将軍

INDEX|2ページ/105ページ|

次のページ前のページ
 

 ザッ・・・ザッ・・・二人の間合いは、少しずつ縮まっていった。
 時だけが流れていく。
 晴れ渡っていた空が俄かに曇りだし、どこから湧いたのか、水に墨を落とした様に、もくもくと湧き出でた。
 そよいでいた風は、次第に勢いを増し、雨粒が二人の剣を洗い出す。天には、分厚い鉛色の雲が、西の彼方から、龍が走るが如く流れていた。時折、雷鳴が鳴り響いた。
 そんな風雲の変化にも動じることの無い二人のサムライは、互いの間合いを見切った。と、同時に玉砂利を蹴散らして、飛んだ。

「イザッ!」
「おうっ!」

 閃光が走った。
 稲妻が、追い込まれた龍のように松林を走る。
 大木が、引き裂いたノシイカの様に飛び散った。
 地響きが起こった。

 最も高い老木が、落雷を受け止め、真っ二つに裂けた。
 忠邦は、子供が噴出したスイカの種の様に飛ばされ、堀の中へ落ちた。

 何が起きたのか、堀から這い上がった忠邦の目に、龍にでも引き裂かれたかの様な、松の老木の姿が飛び込んできた。その根っこの辺りに、名刀国光が静かに光を放って横たわっていた。

「・・・家慶様・・・・一体・・・何が・・・家慶様・・・何処です!家慶様ぁ〜!」

 忠邦は、必死の形相で辺りを探し回った。しかし、家慶は忽然と姿を消したまま何処にも見当たらない。
 水野忠邦。一昨年、老中となり幕府の重鎮となった男。忠邦は天を仰いだ。分厚い雲の奥で稲妻が横に走っている。

「・・・家慶様・・・龍にでも浚われてしまったのか・・・」

 次期将軍、徳川家慶が江戸城から消えた。江戸城内は、蜂の巣を突いたような騒ぎになった。
 
作品名:落ちてきた将軍 作家名:つゆかわはじめ