落ちてきた将軍
第1章 江戸城
天保元年。(一八二九年)正月三日。江戸城内。
「さあっ!かかって来い、忠邦!」
「おうっ!手は、抜きませぬぞっ!」
「痴れた事を言う!・・・抜いたら腹を切らせるわっ!」
「言いましたな・・・イザッ!」
見事なまでに手入れをされた松が四方を取り囲み、冬には珍しく太陽の光が、燦々と降り注いでいた。
誇らしげに聳え立つ大松は、語りかける様に枝を広げ、松葉の塊が、蒼い天と白い雲に映えていた。
忠邦と呼ばれた男は、松の老木を背に、剣を上段に構え、ジリジリと間合いを詰めた。
対峙する男は下段。背筋を伸ばし、悠々と構えている。
「フフフッ・・・久しぶりでござるな・・・」
「忠邦・・・真剣勝負だ・・・心してかかれよ・・・さもなくば・・・命は無い」
「真剣勝負はご法度でござりましょう・・・しかし、この名刀宗政も、久し振りに江戸の気を吸い、ぬらぬらと殺気だっておりますぞ・・・。」
「何を・・・この名刀国光にお前の血を吸わせてやるわ・・・さぁ・・・来いっ!」
ザッ・・・ザッ・・・と玉砂利を踏む音が、不規則に静寂を破る。
心の鼓動すら聞こえそうな静を、堀から飛び立った白鷺のギャーという啼き声が破った。
忠邦の切っ先がピクリと動く。額から汗が、雫となって静かに流れ落ちた。
天保元年。(一八二九年)正月三日。江戸城内。
「さあっ!かかって来い、忠邦!」
「おうっ!手は、抜きませぬぞっ!」
「痴れた事を言う!・・・抜いたら腹を切らせるわっ!」
「言いましたな・・・イザッ!」
見事なまでに手入れをされた松が四方を取り囲み、冬には珍しく太陽の光が、燦々と降り注いでいた。
誇らしげに聳え立つ大松は、語りかける様に枝を広げ、松葉の塊が、蒼い天と白い雲に映えていた。
忠邦と呼ばれた男は、松の老木を背に、剣を上段に構え、ジリジリと間合いを詰めた。
対峙する男は下段。背筋を伸ばし、悠々と構えている。
「フフフッ・・・久しぶりでござるな・・・」
「忠邦・・・真剣勝負だ・・・心してかかれよ・・・さもなくば・・・命は無い」
「真剣勝負はご法度でござりましょう・・・しかし、この名刀宗政も、久し振りに江戸の気を吸い、ぬらぬらと殺気だっておりますぞ・・・。」
「何を・・・この名刀国光にお前の血を吸わせてやるわ・・・さぁ・・・来いっ!」
ザッ・・・ザッ・・・と玉砂利を踏む音が、不規則に静寂を破る。
心の鼓動すら聞こえそうな静を、堀から飛び立った白鷺のギャーという啼き声が破った。
忠邦の切っ先がピクリと動く。額から汗が、雫となって静かに流れ落ちた。