落ちてきた将軍
「では、先程の龍・・・あれはどう説明するのじゃ・・・お前は、見たものすら信じないのか?見たものすら信じる事のできない者に、話を信じろというのは無理か・・・蛙に歌を教えるようなものじゃな・・・ハハハ」
「か・・・カエル?」
「あ、すまん、すまん。カエルの方が歌を歌えるから、まだ上だったな。ハハハ」
「あの・・・お殿様・・・家慶様・・・凄く腹が立ちますのですが」
「まぁ、許せ・・・冗談じゃ」
「今の状況・・・解ってるの?どうやって戻るつもりなの?今は二〇一〇年よ」
「な・・・なんと・・・二〇一〇年・・・そうか・・・ワシは天保元年から、そんなに未来へ飛ばされたのか・・・」
「天宝元年・・・一八〇〇年初頭ね」
「ん・・・綾乃殿は、まんざら呆けているのではないようじゃな・・・正しく天保元年・・・一八二九年じゃ・・・一八〇年ほど飛んできたのか」
「そんなにバカじゃありませんから・・・で、どうするの?」
「まずは・・・腹ごしらえじゃ。腹が減っては、戦が出来ぬ」
「はっ?」
「綾乃殿の住まいへ案内いたせ・・・世話になる」
「世話になるって・・・」
「構わぬ、家族があろう・・・一緒にいても構わぬ。許す。」
「家族は居ないけど・・・その尊大な態度が・・・」
「礼は致す・・・案内いたせ」
「礼って・・・嫌ですよ・・・私だって女、独り身・・・お殿様、男ではないですか・・・」
「そうか・・・歳がいもなく、意外と初心(うぶ)だな・・・はて・・・困ったな・・・なら良い。この祠で暮らすとしよう」
「ち、ちょっと待ってください・・・こんな所に住み着いたら、直ぐに警察が来ますよ」
「警察?」
「はい・・・警察・・・取締り・・・ご法度」
「町奉行の事か?」
「そうそう・・・それでございます」
「ハハハ・・・笑わせるでない。その時は、この印籠を見せる・・・それで決着じゃ」