落ちてきた将軍
「女です・・・男じゃありませんから」
「うむ・・・すまぬ・・・飛脚のような成りをしておるから・・・てっきり少年かと思ってしまった。許せ」
「飛脚?・・・あのね・・・その言葉使いとか・・・まず、その格好は何なの?仮装大会か何かあったの?・・・その帰り?」
「訳の分からぬ事を・・・ワシは家慶じゃ・・・忠邦と剣を交えていたら・・・龍に襲われたのじゃ・・・そして・・・」
「そして?」
「ここは、我が日の本の未来であろう?・・・龍に連れ去られながら見たぞ・・・我が日の本の未来・・・」
「ねえ・・・」
「なんじゃ」
「ほっぺたを、抓らせて」
家慶が・・・・何っ?・・・という間も無く、綾乃は家慶の頬っぺたを思い切り抓った。
「うぁたたたっ!・・・・何をする!無礼な!」
「痛かった?」
「当たり前であろう!無礼千万!」
「怒らないでよ・・・夢じゃないのね・・・」
「夢などではない・・・ワシも龍が出てきた時は信じられなかった・・・ましてや、我が、日の本の未来に来ようとは、夢にも・・・」
「さっきから・・・我が日の本(ひのもと)・・・って言っているけど、あなたの国じゃないでしょう?」
「うむ・・・確かに・・・我が日の本は、民のものじゃ・・・だが、我が徳川家が代々、納めておる・・・我が日の本じゃ」
綾乃は鼻が白んだ・・・このサムライが言う事が本当なら、とんでもない超常現象に出くわしたことになる。
しかし・・・只の頭がイカれた時代劇フリークなら、自分までも笑いものになってしまう。
綾乃は、サムライを観察することにした。目の前で起きた超常現象を確認するには、この、恥ずかしいくらい派手なサムライが「鍵」だと思えたからだ。