司令官は名古屋嬢 第5話 『なまりの中で』
店内は掃除をしていないからか、埃だらけで汚れていた。店の奥まで来たとき、店主がロウソクに火をともす。ロウソクのほのかな明かりが、汚らしい店内を不気味に明るくする。
「これらが約束の品だよ」
店主はそう言うと、床に置いてある2つのダンボールを指さした。東山は、おそるおそるダンボールを開けてみる。ダンボールの中は、見たことも聞いたことも無いような電子部品が詰まっていた。上社はさっぱりわからなかったが、東山は嬉しそうだった。
「確かに!」
東山は満足そうに言うと、ポケットから札束を取り出し、それを店主にやった。
「へへ、まいどおおきに!」
店主は札束を確認した後、嬉しそうにそう言った。
ダンボールを持った上社と東山は、店主に別れを告げ、シャッターは店主によって閉められた。上社たちの車列は、そのシャッターの前に止まっていたのだが、いつのまにか、子供たちが車列を取り囲んでいた。よく見ると、何人かの兵士たちが、子供たちにお菓子を恵んでやっていた。たとえるなら、太平洋戦争後の日本の焼け跡で、占領軍である米国の兵士からお菓子を恵んでもらう日本の子供たちという感じだ。
事情を知らない人には、微笑ましい光景に見えるだろうが、本当の目的は「人間の盾」である。お菓子を恵んでやるために、子供たちを自分たちのすぐ近くに集めておけば、敵は子供を巻きぞえにすることを恐れて、攻撃をしてこないというわけだ……。
「ちょうだい!!! ちょうだい!!!」
本当の理由を知っている上社は、嫌だったが、近くに来た女の子にガムを恵んでやった。女の子は、大喜びでガムを噛み始めた。
「腕の良い狙撃兵がいるから、大丈夫なんだけどな」
上社は、通天閣のほうを見ながら呟いた。
ちなみに、東山はケチなので、1つも恵んでやらなかった……。
そして、上社と東山は、ダンボールをトラックの空いているスペースに詰め込んだ。
「先に行ってて。僕と東山は後から行くから」
「え? 大丈夫ですか?」
上社の言葉に、兵士は驚いていた。治安が悪いのに護衛はもういいというのだから当たり前の反応である。
「すぐに追いつくから」
上社は笑顔でそう言って、兵士を安心させた。
「芋砂(狙撃兵)がいるしな!」
なぜか、東山も上社の提案に乗り気のようだ……。
車列は、上社と東山と二人が乗ってきたプリウスを残して、走り去った。上社はプリウスの運転席に乗りこみ、東山は助手席に乗りこんだ。東山は、白くくもってしまったメガネをふきながら、嬉しそうだった……。
「それで、最初はどの店に行くつもりなんだ? 道案内してやるよ」
助手席の東山が、運転している上社に言う。
「どの店って?」
「『とらのあな』とか『メロンブックス』とかだよ! ただその前に、狙撃班に引き揚げるように言っておかなくちゃな! チクられたらウザいからさ!」
東山は楽しそうな口調でそう言った……。
「言っておくけど、同人誌やグッズを盗みに行くんじゃないよ?」
上社は、東山とは違う真剣な口調でそう言った。
「は? じゃあ、目的はなんだよ?」
すると、東山の口調は、コロっと変わった……。
作品名:司令官は名古屋嬢 第5話 『なまりの中で』 作家名:やまさん