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四神倶楽部物語

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 だけどその後、もっと驚いたよ。
「一体何にだよ?」私はもう聞きたくて辛抱できません。そんな私をからかうように、槇澤は声を潜め、女性の言葉を真似るのです。ねえ、こちらのお部屋の方へ入って来て下さらない、と佳那瑠さんが色っぽく仰ったんだよなあ。いやはや龍斗、よーく認識してくれよな、世の中にはこういうこともあるんだぜ。

 私はこんなのろけに似たような話しに、なにか馬鹿らしくなってきました。しかし槇澤は、こんな私に気遣いもせず、どんどん話しを進めます。
 これ、誘惑してきたんだぜ。据え膳食わぬは男の恥って言うだろ。もちろん遠慮なくお邪魔させてもらったよ。佳那瑠の部屋はメッチャ片付いていてね。どちらかと言えば、何もなかったと言った方が良いのかも知れないなあ。だけど龍斗よ、……、あったんだよ。

 槇澤がもったい付けて、あったんだよ、なんて言うものですから、私は思わず、「えっ、何が?」と聞き返してしまいました。
 龍斗よ、それって当然だったのかも知れないなあ。反対側の壁に、もう一つ。同じ古代蝶鳥の模様の禁断の扉がね。
 ということは、このアパートは防火対策で、いざという時に隣から隣へと逃げて行けるように、その禁断と呼ばれてる扉で繋がっているのかなあと、その時は思ったんだよ。だって、禁断と火事がイメージ繋がりして、そうだろ、龍斗だってきっとそう考えるだろ。

「うん、確かにな」槇澤が無理矢理に同意を求めてきたものですから、私はお愛想で深く頷いてやりました。それに気をよくしたのか、槇澤はさらに調子付きました。
 だけど、佳瑠那とのそんな突然で奇妙な出逢いであってもね、当然あとは男と女の成り行きさ。すぐに仲良くなってしまってね。それからというものは、僕の部屋と佳那瑠の部屋の間にある禁断の扉は、いつも開けたままで暮らすようになったんだ。

 私は槇澤の身に起こったことが羨ましくなってきました。それでやっかみ半分で、「いいじゃないか、隣人同士の禁断の関係、それを持ったんだろ?」と、わかり切ったことをもったい付けて尋ねてやりました。


作品名:四神倶楽部物語 作家名:鮎風 遊