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四神倶楽部物語

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 その上にだぜ、いけない魔女風にさらに囁くんだよ。「いいことあるから、ここをちょっと、開けて下さらない」ってね。これ、ビビッたぜ。

「じゃあ開けなかったんだ」私が槇澤にそう確認すると、槇澤はただただグビグビとビールを飲み干しました。そしておもむろに……。
 開けてしまったよ。その禁断の扉を。龍斗、お前わかるだろ、禁断の扉だぜ。禁断の扉ってなあ、それはその掟を破って、開けるために存在しているんだ、ってこと。

 いけない魔女の甘い囁きで、「ね〜え、良樹さん、いいことあるから、ここをちょっと、開けて下さらない」ってせがまれたんだぜ。そんなの、掟を破るよなあ。それに、龍斗、開いてみて、もっとぶったまげたよ。ホント、自分の目を疑ってしまったぜ。
 禁断の扉の向こうにね、目のさめるようなビーナスが……。うーん、ちょっと違うかな。そうなんだよなあ、目の前がクラクラッとするような、実に妖しい魔性の女が立っていたんだよ。

 私は、こんな槇澤の話しにさらに興味が湧いてきて、「おいおい、魔性の女って、どんな女性だったのか、もっと具体的に言えよ」とせっつきました。すると槇澤は、少しもったいを付けるように話してくれました。
 髪の毛は長くって、どこまでも漆黒。そうだなあ、烏(からす)の濡れ羽色の艶(つや)っぽさがある。
 抜けるような白い肌は、静脈が透き通って見えるほどの美肌でね。目は切れ長で、男を誘惑し翻弄(ほんろう)させるように見つめてくる。そして唇は若干肉厚で、ピンク色。

「おいおいちょっと待った、槇澤よ、それってパーツパーツの能書きじゃないか。もうちょっと全体的なイメージが湧くような表現にしてくれよ」私はこう文句を付けてやりました。すると槇澤は私の方をきりっと睨み返してきて、言い放ったのです。

 要はなあ、男の一生の間で、一度は抱いてみたいと思うほどの色気がある女性なんだよ。龍斗、これでお前もイメージが作れるだろ。

 それにしても、男の一生の間で、一度は抱いてみたいと思うほどの色気がある女性? 私は一旦うーんと首を傾げましたが、それでも槇澤のこの勢いのある放言で、何となくわかったような気分になりました。そのためか、なるほどと頷くだけでした。槇澤は私のこの反応を見届けてからさらに……。

 俺、一目惚れしてしまったんだよなあ。もうどうしようもなく気持ちが高ぶってね。何をどうして良いものやらわからなくなってしまってね、ポーとしてたんだ。すると彼女は、そんな俺を察してか、名乗ってきたんだ。「私、貴咲佳那瑠(きさきかなる)、よろしくね」ってね。


作品名:四神倶楽部物語 作家名:鮎風 遊