四神倶楽部物語
それでも諦めずに、「だったらお兄さん、憶えてる? グリーンスターってね、地球とはちょっと違うのよ。自転してなくってね、表側は80度の灼熱、裏側は零下40度で氷河なのよ」と話題を変えてきました。
私は魔鈴のこの作戦にまんまと嵌まり、「えっ、自転してないって? へえ、そんなの過酷すぎだよ。生物が生存できないじゃないの」と思わず目をパチクリ。
魔鈴にとってこれは想定内のリアクション、それが終わるのを待ってから、ふふふと笑い、「お兄さん、思い出して、灼熱と極寒の間に温暖な帯があるのよ。それはね、グリーンスターの表と裏の境目の地域で、星をぐるりと帯状に巻いているの。そこで私たち生物は生存できるのよ」と教えてくれました。
「なーるほどね」ミッキッコと私は同時に大きく頷きました。
「だけどね、そこから眺めるお空はいっつも夕焼け状態で、地球では滅多にしか起こらないグリーン・フラッシュが頻繁に見られるわ」
私は魔鈴の口からさらりと語られた言葉、グリーン・フラッシュに意表を衝かれました。そして、どこかで聞いた話しを思い出し、頭の中で咄嗟に整理し直しました。
「グリーン・フラッシュって。太陽光というのは、大気に入射すると散乱して、波長の長い赤だけが地表に到達するんだよな。だけど空気がメッチャ澄んでると、波長の短い緑までもが分散せず、目に届いてくる。だから夕陽が緑色に見えるんだよ。そんな現象だったかな?」と。
「お兄さん、意外にお利口さんね、ご名答よ。私たちが住んでる所は、星の表と裏の境目、だから太陽光は斜めに差してきていてね、それで緑色の夕焼けがよく観測できる星なの。だから、グリーンスターって言うのよ」
私は魔鈴に、お利口さんと褒められて、ちーと嬉しくなってニッコリと。いや、話しが面白くって、「へえ、魅惑的な星なんだね」ととりあえずヨイショ一発。
されどもですよ、魔鈴がグリーンスターについて話し始めてから脳にこびり付いている一番の疑問を投げ付けてみました。
「だけど、魔鈴さん、グリーンスターって、20光年も先にあるんだろ。どうやったらそこへ行けるの?」
こんな質問を受けても、魔鈴は動じません。むしろ待ってましたとばかりに、その端麗な顔を余計にきりっとさせました。
「お兄さん、考えてみて、20光年というのは真っ直ぐに測定した距離でしょ。だけどそれはね、単に真っ直ぐに見えているだけなの。本当はね、距離はマジックなのよ。例えば、着物の帯のAの端からもう一方のBの端まで、真っ直ぐ伸ばせば確かに距離あるわよね。だけど、そのディスタンスを幾重にも折り返してみてちょうだい、AとBは近くになるわ。AからBへ、帯の厚み方向で貫けば、その二つの点は、すぐそこにあるのよ」
うーん、どうも魔鈴は私より賢そう。私はまさに鱗から目が、いや目から鱗が落ちました。