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四神倶楽部物語

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 そのレディーは真っ白なブラウスの胸に赤薔薇のブローチを着け、センスが良さそう。そしてデニムジャケットを羽織り、色褪せたディーゼルデニムをピタリと長い足に決めていました。
 私は後ろからミッキッコにドンと背中を押され、おおっとと声を発しながら女性の前へと進み出て、恐る恐る「あのう、私が高瀬川龍斗ですが、何か御用ですか?」と声を掛けました。
 すると女性は何の躊躇することもなく、私を真正面に見据えて、「お兄さん、御無沙汰です。私、魔(ま)鈴(まりん)よ」と返してきました。

 この魔鈴と名乗る若い女性、エキゾチックな面差しで聡明そうです。それにしても、私はどこかで会ったような気がして、「魔鈴さんですか、一度どこかで……」と言葉を発した時に、はっと気付いたのです。
 そういえば、この女性と幼い頃から何回かいろんな場面ですれ違っているなあと。確か初めて見たのは、小学生の頃だった。どこかへ旅行する時のことだったのですが、駅の向かいプラットホームから、幼い女の子が手を振ってきました。

 なぜか鮮明にその時の情景が瞼(まぶた)の裏に残っていて、その女の子こそが只今目の前にいる女性だと。また、その後の成長過程で、遠くの方から二、三回見掛けたことがありました。さらに高校生の時だったと思いますが、確かガールフレンドと歩いている時に、中学生くらいになっていたその女の子とすれちがいました。

 それから長い間見掛けなかったのですが、ほんの二週間ほど前のことでした。仕事を終え、このオフィスビルを飛び出した時に、この女性がオフィスへと入って行きました。特に大した話しではないのですが、なぜか私はそれらのすべてを鮮明に記憶しているのです。

「魔鈴さんと仰られるのですね、そうですか、小さい時から何回かお目に掛かってますよね」
 私は向かい合って席を取り、自分の記憶に間違いがないか確認してみました。
「もう何回も、そうです、数え切れないくらいですよ。だって私、ずっとお兄さんを見張ってきたんだもの」
「えっ、俺を見張ってきたって? それって、どういうこと?」
 私はもう訳がわかりません。そんな訝(いぶか)ってる私に魔鈴は慌てる風もなく、奇妙なことを話し始めました。

「だってお兄さんは生まれると同時に、地球に派遣されたのでしょ。だからその後が心配で、この年になるまで……、私がお目付役だったの」
 私はこれにどうリアクションして良いのかわかりません。
 しかし、横に並んで座っていたミッキッコが、「そうだったの、魔鈴さん。こんなコントロールの効かないお兄さんを見張ってたの。本当にご苦労様でした」と勝手に納得してるじゃありませんか。


作品名:四神倶楽部物語 作家名:鮎風 遊