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四神倶楽部物語

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「佳那瑠さん、一体、何を裂けば良いの?」
 僕は必死のパッチで訊いてみました。
 すると佳那瑠さんは、僕の耳元で消え入るように囁いたのです。「背中を」と。

 佳那瑠さんは今、素っ裸。そんな美女の背中を裂くなんて、僕にはできません。それで僕はもう一度確認のために、佳那瑠さんに尋ねてみました。「何のために?」ってね。すると佳那瑠さんは、今度は涙声で一言だけ返してきました。
「脱皮のためよ」

 僕たち二人の間にしばらく、怪異な沈黙の時が流れて行きましたよ。これ、当然でしょ。
 だって龍斗先輩、脱皮ですよ。これって僕たちの日常生活ではほとんど使わない単語ですよね。僕はそんな言葉を受けて、二の句が告げませんでした。あまりの衝撃で、しばらく放心状態です。

 しかし、「ああ、そういうことだったのか。佳那瑠さんは、今から脱皮するのか」と、やっとこの事態がどういうことなのかがわかってきました。そして僕はもう覚悟を決めました。佳那瑠さんの背中に貼り付かせてある左右の手の平に、ぐいっと力を込めました。
 その途端のことでした。
 ビリッ!。

 この世の森羅万象、そのすべてが引き裂かれるような冷たい響きとともに、佳那瑠さんの背中には――縦方向に――実に見事な亀裂が入ったのです。そして、その開かれた亀裂の奥を覗いてみますと、そこにはきめ細やかで透き通った新しい皮膚がありました。
 ここからです、佳那瑠さんの脱皮が、本格始動!

 しかしながら、ここからが本当に大変でしたよ。佳那瑠さんはその亀裂をさらに広げて行き、まずは背中から。そして時間を掛けて、足、腕と古い肌を脱ぎ捨てて、最後に顔と頭を、実に細心の注意を払いながら抜け出させたのです。
 僕はとにかく献身的な手助けをさせてもらいました。その甲斐あってか、佳那瑠さんは無事に古い皮膚を捨て、新しい肌を身に纏う身体へと脱皮を果たされたのです。
 まさに貫徹!


作品名:四神倶楽部物語 作家名:鮎風 遊