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四神倶楽部物語

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 僕は少し声を震わせて、「そうなんですよ、洞穴をね」と返しますと、その女性が僕をじっと見つめておっしゃられたのです。
「私、貴咲佳那瑠と申します。私も遠い記憶を辿(たど)って、この鞍馬山にある洞穴を探しに来たのよ」ってね。

 私は、悠太が女性の声色で、突然口から飛び出してきた名前にびっくり仰天です。
「おいおいおい、貴咲佳那瑠って?」
 ただただそう呟き、あとは絶句です。そんな私に悠太は勝ち誇ったような眼差しで、「その女性って、今朝部長から紹介があったハケンの佳那瑠さんだったんですよね。確認しましたよ、やっぱりベッピンさんだったんだと。もう恋に落ちそうですよ」と淀みなく、シャーシャーと。

 この悠太の発言に刺激されたのか、私は言わなくてもよいことをついつい口を滑らせてしまいました。
「ああ、男の一生の間で、一度は抱いてみたいと思う女性だよ」

「まあまあまあ、龍斗先輩、気を落ち着けて下さいよ」悠太は私を宥(なだ)め、「だけど確かに、一度は、と思いますよね」と先輩の私をまるで手玉に取ってるようです。
 私からのこの横槍で、悠太の話しがどうもまずい方向にと思い、「ああ、話しを折ってすまない。悠太、先を続けてくれ」と修正をかけました。

「あっと、そうですね。龍斗先輩からのコメントはまとめて最後にでもお願いしますか」 悠太はグラスの水で口を潤し、鞍馬山物語の先へと進めます。

 龍斗先輩、僕ですね、その女性から「私も遠い記憶を辿(たど)って、この鞍馬山にある洞穴を探しに来たのよ」と囁かれましてね、「そうですか、何か同じみたいですね」としか返しようがなかったです。だけど、そんな僕の戸惑いを見てね、佳那瑠さんがさらに話されたのですよ。
「悠太さん、ご心配なく。高瀬川龍斗っていう人、あなたの会社の先輩でしょ。私、龍斗さんとは懇(ねんご)ろの間柄になりそうな、そう、もうちょっとで危ういという微妙な関係だったこともあるのよ。だから、怪しい者ではありませんから、いいでしょ、その洞穴を一緒に探しましょ」

 私は悠太から語られた──懇ろの間柄になりそうな微妙な関係──こんな男女関係の解釈に、思わず口にしていたコーヒーを、ぶっ! と噴き出しました。


作品名:四神倶楽部物語 作家名:鮎風 遊