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四神倶楽部物語

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「龍斗さん、その通りですよ。それで、僕の脳内に刻まれてある古い記憶、それを確かめるために京都の鞍馬山へと出掛けたのです。だけど、現地で実に奇妙なことに出くわしてしまったのですよ」
「ほう、どんな奇妙なこと?」

 私はこんな悠太の話しにどんどんと引き込まれていきました。そして、「まあ、折角の機会だから、こってりと話してみてくれないか」と悠太に催促しました。これで気を良くしたのか、悠太は神妙な顔付きで、その物語を語り始めたのです。

 京都の鞍馬山に行くために、僕は5月4日の朝早くに、新幹線に飛び乗りました。そして東京から京都まで移動し、京都駅からバスと電車を乗り継いで、やっとのことで鞍馬に辿り着きました。
 まずは鞍馬寺へと、そこへは仁王門から入るでしょ。つまり、そこの境こそが俗界から浄域への結界となっているのですよね。

 僕は脳の奥底に眠る洞穴の記憶、それをもっと蘇らせたくて、鞍馬寺への入口、仁王門をヨイショと踏み越えました。それにより、俗界から聖地へと足を踏み入れたわけです。そして初夏の陽光を浴びて、吹きくる風を感じながら、金堂に向かって九十九折(つづらおり)参道を登り始めました。

 九十九折参道は、清少納言が枕草子の中で、「近うて遠きもの」と評した坂道ですよね。まったくその通りでした。近うて遠きものだからなのか、充分過ぎるほど汗ばんできました。それでも息を切らせて、僕はフラフラしながらでも登り続けて行きました。

 そして坂の途中まで来た時のことでした。一人の妙齢(みょうれい)な女性が、坂の折り返しの所に立っていたのですよ。
 それはまるでここへやって来る僕を、ずっと待ち続けていたかのようでした。

 女性には若くて凛とした美しさがありました。そんな女性が何を思ったのか突然に、少し歩き疲れている僕にそっと寄り添ってきたのですよ。
 美女の突然の出現、それだけで驚いていたのに、さらにその突飛な行動に僕は唖然となりました。あとは「あっ、あっ」としか声が出てきません。そんな仰天をしている僕に、女性が優しく声を掛けてきてくれたのです。
「悠太さん、何をお探しなの?」

 僕はド肝を抜かれましたよ。
 なぜって?

 だって、その眉目秀麗(びもくしゅうれい)な女性は僕の名前を知っていましたし、その上に、僕が探しものをしていることも知っていたのですよ。


作品名:四神倶楽部物語 作家名:鮎風 遊