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四神倶楽部物語

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「ほっほー、それは良かった。それで、その洞穴とやらは、どこにあったんだよ?」
 私は部下に花を持たせるため、それはそれは興味津々風に顔を思い切り前へと突き出してやりました。すると悠太は背筋を伸ばし、私を正面に見据えて、もうドヤ顔で、一言だけ口にしました。
「鞍馬山(くらまやま)です」

 私はこれにホント驚きましたよ。悠太の口から突然飛び出した鞍馬山、まさに、その地名にです。
 鞍馬山は標高584メートルの霊山(れいざん)。京都盆地の北にあります。東側に鞍馬川、西側に貴船(きぶね)川が流れ、それらの川に挟まれて、奥深い尾根が形成されています。
 そして、その南中腹に鞍馬寺があるのです。

 遡ること約1,250年前。時は西暦772年、宝亀(ほうき)3年。唐から戻ってきた鑑真(がんじん)には、共に連れ帰った高弟8人がいました。そしてその中に、最年少の鑑禎(がんてい)がいました。
 鑑禎はある夜、霊夢(れいむ)を見ました。それは山城国の北方に霊山があるとのお告げの夢でした。そして後日、鑑禎はそれを訪ねて行きました。鑑禎は夢のお告げ通り、山の上に宝の鞍を乗せた白馬を見て、それに取り憑かれ、山の奥へとさらに入って行きました。

 だがその途中で、それはそれは恐ろしい女形の鬼が現れたのです。鑑禎はそれに襲われ、殺されそうになりました。しかしその時、突然に枯れ木が倒れてきて、鬼は潰(つぶ)されてしまったのです。

 一夜が明けて、鑑禎がそれを確認してみると、その鬼は毘沙門天(びしゃもんてん)の像となっていました。鑑禎はこれに畏れ多いものを感じ、それを祀るために寺を建てました。その寺こそが、鞍馬寺の始まりだったそうだとか。

 私、高瀬川龍斗は学生時代を京都で過ごしました。だから、ここまでは詳しくはないですが、鞍馬山にはこんな神懸かり的な伝説があることは知っていました。
「悠太が言う鞍馬山って、牛若丸が天狗を相手にして剣術の修行した鞍馬山のことだな?」
 私は悠太から唐突に飛び出してきた地名の鞍馬山に、少し霊妙(れいみょう)な気を感じ、悠太にそう確認してみました。


作品名:四神倶楽部物語 作家名:鮎風 遊