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四神倶楽部物語

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 オフィススタッフのミッキッコ、それとも魔界の沙羅さんと呼ばせてもらえば良いのでしょうか、いずれにしてもしっかりしてますよね。私はもう言われるままに、黙々と、5月4日、5月4日と唱えながら、ミッキッコをお姫様ダッコをして、一条戻り橋を西から東へと渡りました。
 途中で、なにか閃光のようなものがまた走っていましたが、もう気にも懸けませんでした。ただ一直線に、ミッキッコを5月4日へと連れ戻してきたのです。

「龍斗さん、ありがとう。これで私、普通通りに時間が刻めるわ。さっ、もうお姫様ダッコから降ろしてくれない」
 手の平を返したような言い草、ミッキッコはそれが止まりません。
「私の運命の日を越えて、この翌日に来るためにはね、この橋の抜け穴を通って、魔界から戻ってくるしかなかったのよ。ただし大地と縁を切りながら宙に浮かんでね、だからお姫様ダッコをお願いしたのよ。龍斗さんが好きだからとか、嫌いだとかの問題じゃないの、誤解しないでね」
 ミッキッコはこんな勝手なことを言い放ちました。

 これには少しカチンときましたが、私はメールで約束した通り、ミッキッコこと沙羅さんを連れ戻してきました。それはこの連休中の個人的な約束、それを果たしたことには変わりありません。だから大満足でした。
 その上に、サラリーマン的発想ですが、ミッキッコには連休明けからまた仕事に戻ってもらい、頑張ってもらえれば嬉しいなあと、そんな天晴(あっぱ)れなことを考えていました。

「なあ、ミッキッコちゃん、お腹空いてない? 5月3日から5月4日へワープし、普通の時間に戻ってきたのだから、まあ業務の一環として、まずはお祝いをさせてもらうよ」
 私は純粋に、ミッキッコをもっと元気付けをしてやりたいと思い、誘いました。しかし、心の片隅では、これでひょっとするとミッキッコとの恋が芽生えるかもという邪悪な気持ちもありました。

 そんな気持ちへの正当化、それは邪心をオブラートに包むサラリーマンの魔法の言葉。
 そう、それは業務の一環。

 まったくもって、何事も業務の一環として位置付けてしまえば気が楽になるのですよね。これって、サラリーマンのちょっとズッコイところですが、ミッキッコも仕事人、そんなことは合点承知の助です。だから、業務の一環に遠慮がありません。
「嬉しいわ、そうね、この特別な日の業務の一環で、先斗町(ぽんとちょう)へでも行って、お食事をご馳走になろうかしら。龍斗さんに伝えておきたいこともあるしね」

 私はこんなミッキッコからのちょっと意味深な快諾をもらって、タクシーを拾いました。憧れの風早美月子と、京都先斗町での業務の一環的な初デート。私は少し張り込んで、5月1日からオープンしている京会席料理の納涼床(のうりょうゆか)へと、ミッキッコをエスコートしました。


作品名:四神倶楽部物語 作家名:鮎風 遊