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四神倶楽部物語

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 そうなのです。ミッキッコがそこに突っ立っていたのです。
 ミッキッコは当社の女性スタッフ。名前は風早美月子(かざはやみつきこ)。
 途方もなく優雅な名前の主です。私が所属する部とは異なるのですが、同じフロアーで毎日働いています。

 都会の女性らしく、あか抜けしていてまさに端麗。外見はやっぱり往年のオードリー・ヘップバーンのようにエレガント。そのため、性格は一見おしとやかそうに見えます。
 しかし、これがなかなかの偽装工作ものでして……。仕事ぶりは、めっちゃキッツイやり手なのです。

 私の風早美月子との繋がり、それは会社のクリスマス・パーティーで一緒に飲んだ程度のものでした。だがその後、みんなで二次会のカラオケに流れたのですが、どうも人との距離を少し置いているようでした。きっと何か秘めたものを持っているのだろうなあと、私なりに推察していました。
 私はそれがどことなく神秘で、ミッキッコになんとなく好感を持っていました。

 だけれども、そんな彼女が……、なぜ、ここに?
 私が首を傾げていると、ミッキッコはもの柔らかな口調で切り出してきました。
「龍斗さん、ありがとう。だけど、私は沙羅よ。少なくともこの世界ではね」
 私はミッキッコが口走ったこの世界の意味がわからず、「どの世界だよ?」と顎に手をやり顔を突き出しました。するとミッキッコは人差し指の先を私のおでこに当て、見事に一言だけで言い切りました。
「魔界よ」と。

 私はミッキッコに頭にくるほど生意気な態度を取られたのですが、「魔界? ふうん、魔界ね」と殊勝にも一人呟くしかなかったです。これにミッキッコは「ふふ、ふー」と意味ありげに笑いながら、その爽やかな外見とは裏腹に、ねっちりとせがんでくるのです。
「龍斗さん、詳しいことはあとで教えてあげるわ。だから、さっさと私を5月4日に連れ戻してちょうだい。ねっ、お願い」ってね。

 そうでした、沙羅さんの願いは5月3日から抜け出すこと。そのためかもう何でもあり、紗羅さんことミッキッコが私の腕に身を預けるように絡んできたのです。私はミッキッコが取ったいきなりのこの行動に、びっくり仰天です。
 しかし、正直に言いますと、嬉しかったです。と言うのも、私はオフィスでいつも遠くの方からミッキッコを眺めて、憧れていましたから。


作品名:四神倶楽部物語 作家名:鮎風 遊