四神倶楽部物語
その顔かたちは枝垂(しだ)れる柳の枝の影となり、はっきりとは認識できません。
しかし、年の頃は私より少し若いくらいかな思いました。だがその雰囲気からして、髪はボーイッシュで、どうも瞳はクリクリッとしていそうな感じでした。淡いピンクのワンピースを着こなしていて、清楚なお嬢さんのような趣(おもむき)がありました。
庶民的な表現をさせてもらえば、そうですね、特にアルコール類に例えれば純生ビール風、と言うよりカクテルっぽいかな?
さらに、その立ち姿を女優さんに準(なぞら)えば、ちょっと格調が高く、往年のオードリー・ヘップバーンを彷彿させるような女性でした。
ということで、新幹線の中で想像を巡らしてきた京美人、つまりふくやかな和風美人とは少しタイプが違いましたが、私は嬉しくなってきました。
「おっおー、やっぱり早起きして、ここまで出掛けてきた値打ちはあったぜ、大正解だよなあ」
私はこう口走りながら、思い切り胸を高鳴らせて、その女性に歩み寄って行ったのです。
「沙羅さん、お待たせしました。高瀬川です」
私は元気良く声を掛けました。すると沙羅さんは、私に柔らかな笑みを送ってきてくれたのです。
まさにその瞬間でした。
私はこの歳になるまで、それはそれなりに波瀾万丈にも生きてきました。だが、これほど驚いたことはありませんでした。
「えっ! あっ! ギャッ!」
度肝を抜かれて、まさにオドロキ、モモノキ、サンショノキ。もうここは感嘆詞の三種盛りでした。
ひょっとすると、このままここで卒倒するのではないかと。私はこの驚愕を最後に、あの世へとおさらばすることになるのかも知れない。そんな死への戦(おのの)きが脳内血管をよりギュッと縮込ませました。実に危ない!
だがその女性はこんな私を見て、さらに楽しそうに微笑んでくるじゃありませんか。それにしても、私はこれからの展開がどうなっていくのか予想もつきません。
私はもう成るようにしかならないと居直りました。そして腹の底にぐいっと力を入れて、声を絞り出したのです。
「ミッキッコちゃん、なんで……、こんな所にいるんだよ?」