四神倶楽部物語
「あのう、沙羅さん、申し訳ないのですが、沙羅さんの姿が見えないのですが」
私はぶつぶつと伝えました。
「そうですか、やっぱりね。高瀬川さんも私の姿が見えないのですか、そういうことなのですね。だって5月4日へと先に進んでらっしゃいますもの」
沙羅さんは特に驚いた風でもなく、単に再確認しているようでした。
しかし、私はそれを聞いて、5月3日が越えられないということとはそういうことなんだと、なんとなく理解できたような気がしてきました。そしてケイタイを握り締めたまま、柳の木の方に向かって少し姿勢を正しました。
「わかりました。それで沙羅さんを助け出すためには、これから私は、どうさせてもらったら良いのでしょうか?」
私のこんな問い掛けに間髪入れず、沙羅さんがまたまた珍奇なことを口にします。
「申し訳ないですが、この橋は魔界への抜け穴なのですよ。だからその穴を通って、5月3日に来てもらいたいの。そのためには、私がいる5月3日、5月3日と唱えながらこちらへ渡って来て下さらないかしら」
「へえー、そうなんだ」
私はただただたまげるばかりで、開いた口が塞がりません。
しかし、事ここに至ってしまった以上、もう引き返すわけにもいきません。「じゃあ、そのようにさせてもらいます」と、あっさりと引き受けてしまいました。
それから私は「5月3日、5月3日」と繰り返しながら、東から西へと橋を渡り始めました。
橋の中央くらいまで渡った時だったでしょうかね、なにか閃光が走ったような気がしました。少し怖くなったのですが、「えーい、もうどうにでもなれ!」と覚悟を決めて、とにかく西詰めへと渡りました。それから私はゆっくりと辺りをぐるぐるっと見回しました。
すると、さっきまで目に入っていた風景がどことなく微妙に違うような気がしたのです。
その中でも一番異なったのが、そうなのですよね、柳の木の下にスラリと立っておられたのです、一人の女性が。
まさにその女性こそが、5月3日の沙羅さんだと私はすぐに見当が付きました。