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四神倶楽部物語

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 沙羅さんは、橋の西の袂(たもと)で待っていると伝えてきていました。私は、そうですね、正午の3分前くらいに橋の東詰に到着したでしょうか。

 現在の一条戻り橋。それは幅は5メートル、長さは10メートルにも満たない小さな橋です。そんな小さな橋ですから、東から西詰めの様子も全部見通せます。それで私は少し注意深く眺めてみました。時折この近所の住人と思われる人たちが、自転車なりウォーキングなりで橋を渡って行かれます。

 しかし、沙羅さんと思われるような女性はどこにもいません。
 私の妄想での予定では、スーパー美人の沙羅さんが橋の西の袂に立っているはずでした。絶対にそうあって欲しかったわけでして……。
 だけど、私の目の前を、ワンちゃんがウロウロと通り過ぎて行くだけでした。
「あ〜あ、これって、ひょっとしたら、沙羅さんにからかわれたのかなあ」

 私は犬っころをただただ目で追いながら、不安になってきました。そんな気落ちした時でした。着メロが鳴ったのです。
「もしもし、高瀬川ですけど」
 私はいつも通り名乗りました。すると若い女性の声で、すぐに応答がありました。
「私、沙羅です。高瀬川さん、今どちらにおられますか?」

 いきなり、どちらにおられますか? と訊かれても、私は当然ここにいますよね。そこで私は、ちょっと不満たらしく言い返しました。「わざわざ東京から出掛けてきて、今、一条戻り橋の東詰めいるのですが、沙羅さんの姿を一所懸命探しているのですけど、そちらは、名古屋辺りにおられるのですか?」ってね。

 すると沙羅さんが奇異なことをおっしゃってくるのです。
「高瀬川さん、遠くから私を助けに来て頂いて、ありがとうございます。私は5月3日に取り残されたままです。だから私には5月4日が見えないのですよ。ところで、高瀬川さんの所から西の袂に小さな柳の木が見えるでしょ、今、私はそこにいるのですよ。高瀬川さんをそこでお待ちしていますわ」と。

 私は気を取り直し、言われるままに確認してみました。
 確かに柳の木が一本ありました。しかし、女性の姿などどこにも見当たりませんでした。


作品名:四神倶楽部物語 作家名:鮎風 遊